旨いもの王国で(その4)

            
(前回より続く)

あたりはいつの間にか真っ暗。
       

海岸沿いの広い畑が両側に広がっているんだろう、何も見えない。

 

どこをどう行ったのかさっぱり判らないまま、とある寿司屋へ案内された
    

どこにでもある造りの広い座敷に腰をすえる。
      

     

遠くから来た者なんで、福井の美味しいもの食べさせてください!
   

カウンター越しのご主人に向かって、調子に乗ってお願いする。

    

厨房からは無言。 なんの返事も無い・・・。

  
ところが、、、、、、だ、

          

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福井県といったら、今が旬の“越前ガニ(ズワイガニ)が登場
    
   

手前はメスで「せいこがに」と呼ばれ、奥がオスの越前ガニ。

       

  
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黄色のタグが付いたのが、正真正銘の三国港産・越前ガニだ。
皇室への献上ガニは三国港で水揚げされたものが毎年届けれられる

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ぷ~~んと漂うカニ味噌の香りと
トロリと舌をとろけさせる官能的な食感がたまらない。
  

嗅覚、味覚をシビれさせるこの旨みを知ったら、即座にノックアウト。

  
   
食べるんだったら、その旬の季節に現地に来るに限る。

足を運んだ甲斐というものをまざまざと感じさせられる。

   

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今まで知らなかったメスのせいこ(勢子)ガニ。

溢れんばかりの外子(受精卵)と赤いダイヤと呼ばれる内子(卵巣)は珍味の域を超えて食べる者を虜にしてしまう。

   

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足が細すぎて身が小さく食べ辛いので、3~4ハイで1000円くらいの安価で売っているのだが、僕はこのせいこガニの方が美味しいかも・・・、と恐る恐る漏らしたら、ご主人が、味がわかる人だね、地元でもカニ好きはせいこファンが結構多いんだよ、と教えてくれた。

       
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具沢山のカニ汁。せいこガニの甲羅が丸ごと。身も心もあったまる。

     
   
貧乏性なだけで味覚の方ははなはだ自信がないが、
僕にとって、カニだってやはり女性のほうが宜しいということだ。

       

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福井に来たら食べたかったんだぁ。  

あこがれの鯖サバ、サバ、サバ
    

        

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日本海の甘エビ。

そのネットリ甘い食感は、これまでの味覚体験を覆す。

今まで食べてた冷凍甘エビはなんだったんだろう???

     
    

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今が旬のノドクロ。 脂がこれでもかッというほどタップリ乗っていて、異常なまでの存在感を示してくれた。
      

       
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おかみさんがマンジュウガイとか言ってた初体験の貝。

  
こんなの違反だよッ! と叫びたくなる旨さ。

     
海の香りと貝の旨みが溶け合って、縦横無尽に鼻腔を撫で回す。

      

あまりに堪能してしまって、このあと、何を食べたんだか記憶が消えてしまってるのだ。

    

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本場のカニ寿司 北前船で運ばれたであろう昆布の仕込みも素晴らしい

      
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もう、何がなんだかわからない。

      

おご馳走さまでした・・・。 

         
と、「お」と「ご」を重ねて付けたくなるほど、ご主人の手さばきと日本海の食材に感謝したい気持ちだった。

            

お礼を言ったら、それまで職人肌で寡黙に仕事をしていたご主人が破顔一笑、地元・三国町の食材に関わる楽しい話を披露してくれた。
       

デザートのその後に、さらに心がとろける会話だった。

       

このご主人、イラスト絵画の名手でもある。

     
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この絵は、0.3ミリの極細の水性サインペンの筆先をさらに細く削って書いたという真冬の東尋坊である。

       
細かい黒いドット(点)だけで、荒々しい波しぶきや積もる雪をも表現している。

本物を間近で観ると、見事としか言うほかない。

       

これはご主人が客のために描いた自画像。

      
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こちらは正反対の単純なタッチなのに、写真よりずっとリアリティーがある。

       

      
今回の福井ファースト・トリップは忘れられないものとなった。
      

セミナーでは北陸・新潟地区の積極的に海外にチャレンジする関係者の方々と出会い、郊外では新井さんをはじめ、珍しい品種の果樹を組織的に栽培加工している元気な女性経営者とも交流した。

        

帰還の直前には、あの福井を代表するB級グルメ「ソースカツ丼」と名物「おろしソバ」をいただく。

       
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プ~ンと香りたつ懐かしいウスターソースが食欲をそそる。
      

B級万歳ッ! と心の中で叫んだ。

  
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ご飯は脇役ではない。

      

日本を代表する品種「コシヒカリ」は、実は福井で育成され誕生したのだそうだ。

      

素晴らしいお米があって、様々な食文化が花開いているのである。

       
なんともうらやましい幸せな土地だろう。

          

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越前名物「おろしそば」

           

おろしに使われる辛味大根も当地の特産。

新井さんは年中使える辛味大根の保存法についても研究している。

                                 
                           
そしてまた・・・、
    

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突然、時の人ならぬ、時の町となった元気な小浜市のアクションにも拍手を贈りたい。

          

正真正銘の旨いもの王国-福井の奥はかなり深いようだ。

         

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こりゃ、もう一度足を運ばなければならんな

などと都合のいい予感をしている。

            

福井県の皆さん、本当におせわになりました
       
                              (シリーズ終わり)

           
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旨いもの王国で(その3)

      
(前回より続く)

食事の会場に行く道すがら、せっかくだからとあの有名な景勝地「東尋坊(とうじんぼう)」を案内してくれることになった。

   

でも天気はあいにくの冷たい雨。 しかも土砂降り。

   
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また次の機会にゆっくり観よう…。

   
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日本海側の冬の空を象徴するかのような雲の群れ

    

と、諦めかけていたら、現地に到着すると、厚い雲の合間から夕陽が顔を出してきたじゃないか!!

  

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感動的・・・。 ツイてる。

   

いつの間にかカメラマンが大勢現れてきた。

  
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新井さんの話では、こんなに綺麗な日没は珍しいそうだ。

   
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こんな光のページェントの風景を描写しきる技術は、僕には持ち合わせていない。

   
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垂直に切り立つ安山岩の柱状節理は日本でも三ヶ所しかないという

   

カメラは傍らに置いて、ただただ断崖に打ち付ける波のドラマを眼と耳と、そして心を凝らして全身で受け止める・・・。
   

  
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荒々しく打ち付ける波

   
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画像左上の小さな人影の場所が、サスペンスドラマのエンディングの定位置か?

  
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夕日に映える屏風岩

  

新井さんがあきれた顔をして僕に向かって言い放つ。
     

   
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普通こんなに体の芯まで冷えるほど寒い時、よそから来た人なら記念写真だけ撮って10分もしないうちに、すぐに帰ろうと言い出すのに、あんたと来たら・・・。」
   

   
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気づけば確かに寒い。凍えるように芯から冷える。

  

そりゃそうだ。ワイシャツに普通のスーツだけだもんね。

       

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残念なことに、ここは自殺の地としても有名

  
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句碑かと思ったら、「粗末にするな 親からもらったその命」と書かれている

   

気を取り直して、

さあ、グズグズしてないで早く行って温まりましょうよッ!と僕。

  
   

げんきんなヤツだ、と思われようが、
心は高揚しているからなんのその。

    

最も待たせた僕が一番先に車に乗り込んだ。

                                 (次回に続く)

  

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東尋坊から沈みゆく太陽を眺める

   
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旨いもの王国で(その2)

      
(前回より続く)

       

今年は露地物の生育期に苦労しました・・・。

  
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福井県坂井市でスイカを生産しているあらいやの新井さんは6年来の友人である。

    

2000年に脱サラして、今で言う新規就農された元気生産者の一人である。

      
     

サマーオレンジという果肉が赤でも黄色でもなくオレンジ色をしていて、しゃりしゃりした食感が特徴のとても美味しいスイカなのだが、この品種を新井さんほど大きく甘く育てることのできる人は、当時は誰もいなかったらしい。

  

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とはいっても、脱サラしたばかりで、近隣で盛んに栽培されているスイカ農家から見様見真似で技術を確立させたのだそうだ。

  
      

スイカの栽培は簡単そうに見えて、実はとても日常管理が難しい作物のひとつだ。開花を迎えると旅行にもいけないほど気の抜けない毎日なのだという。

      

大手電気メーカーの支店長を通じて、6年前に僕と新井さんは知り合ったのだが、ようやく完成した福井・東尋坊産のサマーオレンジをこれからどうやって売っていこうかと考えておられた時、それなら海外でまず名を上げてみませんか?と僕が提案して、香港で試験販売することになった。

     

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今から5年前に始まったチャレンジ!

   
   

初年度は20玉の試験販売。
     

      
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海外輸出には様々な経費がかかるから、結局現地高級デパートでは、ひと玉約7000円にもなってしまう。

   
  

しかもコーナーの裏側には、中国産の超格安の甘いスイカが並べられる。

   

十倍近い値差が立ちはだかる。

   

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破格値のスイカに地元の消費者にも関心を呼ぶ
         

        
やってみなければわからない・・・。
      

        
正直、不安ばかりだったが、ふたを開けてみるとすぐに完売

      

その後、順調に数字を伸ばし、定番商品として作付け前に予約注文を受けるほどまでに成長し、去年は年間計500玉に達した。

      
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日本各地のプレミアムスイカが並べられる(2004年)
香川産の四角いスイカが日本円で2万円を超える!?

     

    
当時の香港の好景気も追い風ではあったが、もちろんこの間の新井さんの栽培、販売に対する不断の努力がいかばかりであったかは想像していただけると思う。

   

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これから冬の間、地力回復に努める畑

         
   

残念ながら、今年は露地物が気候など様々な要因で苦戦した。

       

それでも、このときがチャンスとばかりに、再度勉強を始めたり、外部ネットワークを広げたり行動を起こして、地元の加工販売のパートナーと農工連携して新商品開発に余念が無い。

     
  

新井さんのスイカが地元の支援を受けてブランド化される日もそう遠くないことだろう。

   
   
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来年はまたやりますよお~ッ!

   
   

新井さんの笑顔に満面の自信が覗いている。

    

       
前向きな話を酒の肴に、さあ、福井の美味しいものを食べに行きましょうよ!

    

新井さんに誘われて、地元の人が通う「隠れ家」に案内してもらうことになった。
                                   (次回に続く)