九州が動き出す

熊本で、九州農政局主催の農林水産物・食品の輸出促進活動報告会が開かれた。
050325nouseikyoku1目的は、九州6県の輸出担当者が一堂に集まり、平成16年度の国の補助事業に対する活動報告会なのだが、
この事業を広く知ってもらおうと、地場産食品輸出に関わる企業や団体、生産者にも参加が呼びかけられ、会場一杯の参加者により、熱心に議論が行なわれた。
3年間の本格的輸出事業を行い、前年比10倍増のイチゴ輸出を達成した福岡県。
輸出に熱心な経済連と強力タッグを組んで中国への販路開拓に取り組む佐賀県。
観光誘致と水産物輸出からアジアへ切り込む長崎県。
物流と商流の構築を重視し、実践的なアプローチに挑む大分県。
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輸出に果敢に挑戦する単位農協や農業法人のバックアップに徹し、輸出者に求められる支援の場を提供する熊本県。
全国的に注目されるスギ木材の輸出と共に、高付加価値・安心安全農産物のアジア市場開拓を図る宮崎県。
独自のアプローチで、農・林・水・畜産物の輸出に取り組む鹿児島県。
各県とも、品目、輸出先、方法、事業主体も、それぞれ異なる開拓手法で、非常に興味深かった。
「異なる・個性ある」ということは、素晴らしい価値である、と私は考えている。
理由のひとつは、それぞれが持つ資源や知恵を使って、主体的に考え、行動しているからである。
もうひとつには、そのような個性あるアプローチができるだけの基盤が各県にあるということを証明しているのである。
手探りながらも、商品、人材、情報、ノウハウ蓄積、アジアとのネットワークを駆使して挑戦できるだけの層の厚さを九州各県は持っているのだ。
もちろん、今後どこもが輸出に成功するとは限らないが。
このことは、短期的には九州どうしの産地競争が海外市場でも展開される懸念があるのだが、各県がアジア向け輸出のファーストステップを果たした後、こんどは九州としての連携が生まれてくることは必然だと思うのである。
報告会では、私にも発言させていただく機会を与えられ、来るべき「九州の広域連携の可能性」についても言及した。
各地の個性や特長を生かした連携があるはずだ。「九州はひとつ」という言葉の意味は、意識の温度差やターゲットの異なる各地域を、同じ方法論で一律に進めることではなく、困難問題の克服や相互補完・協力、海外情報の交換、他産業との連携などを柔軟大胆に行なえる意識の共有化ではないか、と私は考えているのである。
多様な個性の集合体こそ、他にはない「九州ブランド」の価値なのではないだろうか。
会議の冒頭で、九州農政局長のスピーチで、

「これから九州は『食・体験・観光』というキーワードでつながりを深めていくという方向の中で、アジア向け農水産物輸出を捉えてみては」という提言がなされた。

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非常に注目される提言である。これはもう掛け声ではないのである。すでに行動計画も練られ、九州の各機関も横断的な協力支援体制を構築し始めているのである。
農水産業における生産・流通(物流・商流)・販売の有機連携、個性の異なる六つの県の地域連携、第一次産業と二次、三次、四次との産業連携が、アジアへの農産物の輸出をテーマにして、いよいよ動き出そうとしているのである。
行政も、生産者も、企業も、団体も、サポーターも、地域の関係者は、思考観念の転換と行動の準備はできているだろうか?
会議の中で、輸出に熱心なJA単協担当者が「農産物輸出は、何が起こるかわからない。ものすごい緊張感を伴う」という発言をしたのが、とても印象的であった。
かといって、このJAは、今年は、止めるどころかさらに輸出に取り組むそうである。
実は、この緊張感こそが、地域の生産販売力のレベルを大幅に向上させ、他から得られない強力なノウハウを国内販売に生かすことが出来るという価値を、すでに認識しているのである。
九州は、いよいよ動き出した。

福岡西方沖地震から考える

20日午前、福岡佐賀地方を襲った地震は、絶対にここではありえるはずがないと信じていた市民に大きなショックを与えた。
直接間接の被害に遭った多くの被災者の皆様に、心からお見舞い申し上げます。
地震の翌朝、所用で外出した道中でも、このような情景に出遭った。
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これらの画像は、遠く離れた人々にどのような情報を伝えるのだろうか?
福岡の街全体が、あちこちで倒壊し、大惨事の姿を想像するかもしれない。
私も神戸淡路大震災の時、発生一週間後、この眼で見た凄惨な光景は、今も忘れることが出来ない。
でも、今回の福岡の場合は、少し様子が違う。詳しくは省略するが、震源が都市の直下でなかったからか、倒壊したのは、主に古い寺社や家屋、ブロック塀などが中心だ。
繁華街の中心である福岡ビルの外壁ガラスがめちゃくちゃに割れたのだが、周りのビルはほとんど割れておらず、概観からは変化がない。このビルは比較的古いから、構造的に割れやすかったのだろう。
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しかし、この光景がセンセーショナルなシンボルとなってしまった。報道サイドとすれば、画像的に地震被害が分かりやすいところを狙うのは当然である。
私が何故このことにこだわるかと言うと、今後、福岡は、観光誘致や企業誘致にとって、暫くはマイナスイメージが付きまとうかもしれないからだ。被害者が出ているのに不謹慎と言われるかもしれないが、これは軽視できない事である。
これまで、福岡に企業を誘致する際に、訴えてきたフレーズのひとつが「日本で最も災害の少ない街」。特に、地震がないことが、東京との比較で、最大のアピールポイントになっていたのである。
昨年の中越地震発生2週間後に会議で新潟に行ったのだが、実際、新潟市は大きく目立った被害はなかったのである。当初報道により「新潟地震」と呼ばれたため、新潟市が危険だというイメージが広がり、付近の観光地やサッカーの試合、ビジネス関連の会議などに人が集まらず、新潟市の友人達がとても複雑な思いをしていたことを憶えている。
被災者がいる以上、「ここでは被害がなかったから問題ない」と大きな声で訴えることも出来ず、危険な街というイメージが先行してしまうことを心配していた。
同様に、現在、韓国で大騒ぎになっているという竹島問題や去年の中国のサッカーブーイング問題も注意が必要だ。その意味では小泉総理が言うように、まずは冷静に見守らなければならないというのは正しい判断かもしれない。
ここで報道の真偽やあり方を問うつもりはない。
実は、私自身も、例えば、香港で日本産のイチゴがまとまって輸出できたからといって、日本産農産物があたかもアジア市場で売れまくる、と軽々に判断してはいけないのだ。
また、福岡は過去、大地震の記録がなかったために、専門家も含めて誰も備えがなかった。地震保険も福岡県と佐賀県は一等地、すなわち保険料が一番安い地域なのであった。
そういえば、21世紀に入っても、地震や台風、豪雨などの自然災害、テロ、経済危機、疫病などは、時と所を選ばず、突然やってくる。
海賊事件も九州と関わりがあった。海賊なんて誰が予測していただろうか?
海を渡る事業は、いつもそのリスクにさらされる。
これも、正しいソフトパワーで打ち破っていくより他にない。

佐賀の挑戦

佐賀県が、上海・青島から食品バイヤーを招聘し
県産農産物の輸出振興のための現地視察を行なった。
同県は、米(もち米)、麦(ビール麦)、大豆などをはじめ
たまねぎ、アスパラ等の野菜は日本ランキングレベル。
かんきつ、梨、イチゴなどの果実も有名で、
ほかにも佐賀牛、嬉野茶など
いわゆる「実力派」商品を有する九州屈指の農業県である。
視察では、神埼地区のイチゴ・アスパラガスの産地を訪ねた。
佐賀では、いま「さがほのか」「さちのか」を主力に
イチゴ栽培にも力を入れている。
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ちょうど最盛期を向かえ、
最新鋭のセンサーによる選別・パッケージラインのフル稼働の様子は壮観だ。
大粒で真っ赤なイチゴが一粒ずつベルトコンベアーで選別されていく様子は中国からのバイヤーも驚いていた。
国内はもとより海外に向けても、
イチゴを中国本土へ輸出することを
最大の目標としていることからもその熱意が伝わる。
佐賀県は昨秋から、
青島と大連に向けてナシの輸出も始めている。
山東・遼寧省といえば、中国でも指折りのナシの産地。
そのお膝元ともいえる青島で、
大玉2個で約2700円相当の贈答用ナシ等を含め
日本からコンテナで持ち込んだ8割を売り切ったというのだからスゴイ。
その青島の大手日系スーパーの総経理は、
当初、「まさかここまで売れるとは思わなかった…」と
小声でチラリ。
現地のプロも驚くジャパンブランドの威力は
想像以上かもしれない。
輸出の試験地となったJA伊万里を訪ねた。
不安も多い輸出事業だが、担当者のチャレンジ精神は旺盛だ。
伊万里港も大連港との航路が開設し、
物流からの支援も整いつつある。
今回、果実を味わうことが出来なかったが
ハウスの中では、ナシの花がとても美しかった。
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会場を佐賀市に移し、
東京から農水省の輸出担当室長も招いて、セミナーを開催した。
室長のほかに、上海・青島のバイヤーからそれぞれ
現地最新情報も報告され、たいへん熱の入ったものとなった。
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夜は、地元大手ホテルの料理長が提案する
佐賀県農産物を使った料理のプレゼンテーションが行なわれた。
とても斬新な企画で、
地元で採れたての野菜や肉、海苔などを素材にした
前菜やメイン、スープが、また果物を使ったデザートなど数十種類に及ぶレシピが提案された。
どれも秀逸・ユニークなものばかりで、とても面白いのだが、
これは佐賀県のノウハウなので、残念ながら詳細をご紹介できない。
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産地を訪れ、商品の持つ素晴らしさを知ることも当然大切だが、
「どのようにして食べるのか」という提案
販路開拓にはとても重要だ。
特に、海外で野菜を売る場合には必要だろう。
あっという間の3日間であったが、
中国からのバイヤーもたいへん満足し、
また多くの情報を持ち帰られることになった。
佐賀県は、知事をはじめ、県や市、
また農業団体が、輸出事業に対して極めて熱心な地域だと感じた。
それぞれの輸出担当者の理念は明確で、
何よりもスピード感ある行動で、実行力が高い
県連責任者の方が、

「輸出は、すぐに実績をあげるのは難しいが、
次の世代のために、今行動しておくことが
生産者のために何よりも必要だ。」

と語られたのには共感した。
言うのは簡単だが、組織の中で実行できる人は極めて少ない。
佐賀県の輸出事業に対する挑戦は、必ず実を結ぶことだろう。