世界の注目集まる香港で

WTO閣僚会議を13日に控えた前週、会議の舞台である香港に立ち寄った。

世界が注目する会合だけに、香港のホテルも日本からのフライトも予約が困難を極めるほどの満席状態だった。

香港の街はすでにクリスマスのデコレーションで、いまや有名になったビルの電飾も相変わらず美しい。

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(いまや名物となった香港の電飾)

年々センスが良くなっているのがわかる。セントラルの一角にもクリスマスの装飾が施され、若いカップルなどで賑わっていた。

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商業施設もすっかりクリスマスモードである。一部バーゲンも始まっており、ここ数年に比べ、明らかに景気が上向いていることが傍目にも伺える。

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(香港でもクリスマス商戦が)

私たち一行が搭乗した福岡発香港行きの便は、実は今年初めて福岡の戦略商品であるイチゴの「あまおう」の香港向け第一便が搭載された便でもあった。

このあまおうは、日本国内市場でも、最も高価で取引される「美人系」のイチゴで、一昨年は香港向けに1.4トンの輸出を実現し、昨年度は台湾向けも併せて23.5トンと、なんと一年で16.5倍に増えたのである。

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(今年香港向け第一便の福岡産「あまおう」)

今冬は、産地や試験場、現地バイヤーとの協力関係も強化され、科学的分析を通じて、輸出を意識した商品作り、包装の改善、マーケティングミックスなど新たな取り組みにも挑戦している。

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(鮮度保持のための新工夫が施されている) 

この中心的役割を担っているのが、福岡県農政部の「福岡・食の輸出促進センター」である。常に難題に取り組む情熱は並大抵のものでない。今年初めて、困難といわれる上海向けの梨の商業輸出も実現した。生産者と共に行動する姿勢は、ひとつのモデルと呼ぶにふさわしい。

福岡から香港向けの農産物は、空港に集荷された商品が朝一番で通関を済ませ、午前の便に乗せられ、香港到着後、空港からそのまま売り場に並べられるので、当日午後5時に、香港の消費者は手に取ることが出来るのである。これは、トラックで福岡から東京に運ぶより一日早いこととなり、生鮮農産物の輸出には非常に有利である。

この日も、空港到着後、早速高級デパートに並べられた。
ひとパック79.8香港ドル(約1300円)という値札がつけられたが、私の見ている前で、香港人らしきご夫人ふたパック、サッとかごに入れてくれた。

何度この光景に遭遇しても、やっぱり信じられない想いであると共に、心の中で「毎度ありがとうございます」と頭を下げていた。

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(お買い上げありがとうございます…)

3年前、自分をだますつもりで、「とよのか」イチゴを香港の店頭に並べて頂いた時のことを思い出した。
それがこんなに短期間で、これから迎えるクリスマス、旧正月、新年商戦における青果売場のメイン商品のひとつにまで成長するとは思いも寄らなかった。

事実は常に想像を超えている。
もちろんそれを実現するのは、一人ひとりの人間の信念と行動である。

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(庶民の果物屋(旺角地区)でも正品のあまおうが約1600円売られていた。驚いた)

愛媛で農産物輸出を考える

愛媛県松山市で、(社)愛媛県産業貿易振興協会、ジェトロ愛媛貿易情報センター等の主催による「愛媛県農林水産物輸出促進セミナー」が開催された。

輸出セミナーは、昨年に続く2回目の開催だそうだが、70名を超える熱心な参加者を集めた。

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東京からジェトロ農水産部の石川総括審議役が、国の様々な施策や輸出事例などが紹介された。国の輸出事業推進の最前線におられる方だけに、貴重な情報を幅広く勉強できた。今後、東アジアだけでなく、インド、中東、欧州にまで、日本食の普及を目指すジェトロの意気込み熱く語られた。

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(ジェトロ石川審議役)

私が2番手に立った後、トリを務められたのは、島根県西部のJA西いわみの御手洗部長で、プレミアム米の台湾向け輸出の事例についての講演があった。JA西いわみの「ヘルシー元気米」の台湾輸出は、いまや伝説となりつつある成功事例として、小泉総理がアドリブで紹介するほどだ。

051215ja 中山間地の単位農協が、自力で無名の減農薬米を海外に輸出する挑戦は大きな注目を集めた。決して派手な語り口ではないが、人任せにせずコツコツと実績と信用を勝ち得ておられる経緯を説明された。いたずらに量を追い求めるのでなく、質を高め、息長く海外に販売することで組織が活性化し、地域が元気になるという大きなビジョン支えられた活動なのだ。

石川審議役も御手洗部長も、早くからお名前は耳にしていたが、対面が実現し、たいへん勉強になった。

松山といえば、漱石の坊ちゃん。そして道後温泉である。話を聞くと、韓国や中華系のツアー団体客が大勢温泉三昧にやってくるという。館内には、ハングルや中国語の表記がされていた。彼らもきっと愛媛産のミカンや水産物などの素晴らしさを体験していることだろう。

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(道後温泉本館正面)
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(館内の表示板。各国語で表記されている)

今回、松山を訪れるにあたって、もうひとつの楽しみがあった。

私の農業、ITの師匠である農産物コンサルタントの山本謙治氏(通称やまけん)が、親友のホリエモンこと堀江貴文氏と人気スポーツライター二宮清純氏の三人で、「愛媛じゃこ天ツアー」を敢行したときの紀行ブログを見て、ぜひ松山に来たらじゃこを味わおうと思っていたのだ。

良かったら、ぜひ氏のブログをご参照いただきたい。きっとじゃこ天が食べたくなるから…。ちなみに山本氏と二宮氏は愛媛県の出身なのだ。
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2005/06/with_1.html
(やまけんの出張食い倒れ日記)

私は今日まで、じゃこ天は、チリメンジャコを使って作られるものだとばかり思っていたが、現地に来てそれが間違いであることがわかった。「はらんぼ」と呼ばれるほたるじゃこという魚を骨ごとすり潰して油で揚げるテンプラである。

前夜、会席料亭で板前さんにわざわざ私の為に、揚げたてのじゃこ天を特別に作っていただいたのだ。もう感激、絶句であった。グルメブログでないので詳細は省くが、すり身独特の深い味わいで、瀬戸内の潮を香りを感じさせる見事な一品であった。

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(忘れられない愛媛の味)

ちなみに、香港をはじめ、東南アジア地域では、この魚肉練り製品はとても良く食べられている。もしかしたら、近いうちに、この愛媛のじゃこ天が海外でも味わえるようになるかも知れない。

畜産の町を訪ねて

宮崎県高城(たかじょう)を訪ねた。

昨日から降り続く雪は、九州高速道を南下する道中、熊本/宮崎/鹿児島の県境付近で横殴りの吹雪になり、速度規制をするほどだった。都城インターを降りると、肌寒い中にも晴れ間も見え、南国太平洋側に近いことを感じた。

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到着するや否や、高城町役場の課長さんの案内で、農業関連の現場も見学させていただいた。

高城町は、豚やブロイラー、肉牛・乳牛など畜産の生産額が農業全体の86%という地域だ。
農産物は、水稲のほか、ゴボウ、サトイモ、キュウリ、イチゴ、葉タバコ、茶葉などを産する。

来年1月には、隣接する都城市と合併する予定である。
今年の台風15号は、この地方でも大きな被害をもたらし、ここ一帯のハウスが完全に水没するほどの冠水に見舞われたという。とても信じられない。

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(この一帯は畑も家屋も皆、浸水したという)

最初に、認定農業者協議会の会長さんのハウスを見せて頂いた。

広いハウス内には、見事にキュウリの苗が植えられていて、すでに実っていた。

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「吊り下げ式栽培」という、この一帯では広く採用されている効率の良い栽培方法だそうである。とにかく見事という他ない。

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(吊り下げ栽培。ワイヤに水色のフックが掛かっている)

続いて、乳牛の酪農家を訪ねた。

お馴染みのホルスタインがずらりと並んでエサを食んでいる。牛舎を覆う酸味の強い発酵臭は、飼料成分によるものだろうか。稲藁は地元のものを使用しているとの事である。

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お話を伺ったら、冬は夏場に比べて、需要も減り、原乳の単価も低くなるので、作業量が減るのだという。
夏場の良い時で1リットル100円くらいで、今の時期は70円ほどの厳しいものだという。

また、成分により価格が変動するそうで、脂肪分の多い原乳を採ろうとするとどうしても高価な飼料を与えなければならないという
大変な作業だ。
それでも、当地の畜産は、農産に比べ、後継者は比較的確保しやすい方だという。

引き続き、町内最大の肉牛の肥育場も見学させていただいた。
とにかく広い敷地に延々と牛舎が連なる。いわゆる宮崎牛として出荷される和牛の黒牛と、ホルスタインの去勢牛が数多く肥育されている。

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(ホルスタインの去勢牛)

このホルスタインの去勢牛の販路は、主に大手食肉パッカーに出荷されるのだが、まさに昨日発表されたアメリカ産牛肉の輸入解禁により、来年には価格の軟化が懸念されるらしい。
畜産県である宮崎や鹿児島にも、また超えるべき試練が迫るかもしれない。

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(町内には、焼酎原料用甘藷の大貯蔵庫もある)

ほかにも、町の委託事業のひとつであるコメ粉で作ったパン工房も見学した。新たな取り組みを模索している。

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夕刻、年一度の研修会に参加させていただき、貴重な情報交換を行なった。

篠原町長をはじめ、100名を越す認定農業者が集まり、活発な議論を行なった。

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農畜産物の輸出に対しても強い関心を示していただき、とても頼もしかった。

畜産物は金額が大きいだけに、輸出するにしてもその実績が期待される。BSEや鳥インフルエンザなど今後の推移が気になるところだが、香港ではBSE以前、宮崎牛はブランドでもあっただけに、関係者には、来るべき解禁の時はぜひ頑張ってもらいたい。

寒さ募る高城の町を、ひとり深夜あとにした。

このエントリをすぐにアップする事を期待してくれているある方に捧げます…

思わぬ吹雪に遭遇する

今日は朝から雪が降り出した。

午後から、福岡県田川地域農業改良普及センターでの研修会に参加すべく、バスでの移動中、突然の吹雪に遭い、思わぬ雪景色となった。

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田川市後藤寺の街についても、雪は降り止まず、手がかじかんでしまって、ここ九州でも思わぬ寒さだった。

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(後藤寺の街で)

今日の研修会は、県の農業普及員の皆さんによるもので、2時間にわたりアジア市場に向かって攻める福岡県の輸出の取り組みについて講演させていただいた。

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(田川地域農業改良普及センター)

この地域は、良質な水や土壌に恵まれ、県下では最良食味の美味しい米が採れるのだそうだ。また、トルコキキョウの生産では県下最大で、花卉の輸出についても関心が寄せられた。他に、イチゴや甘柿、梨、メロン等の栽培も行なわれている。

若くて優秀な指導員の方ばかりで、たいへん熱心に話しを聞いていただいた。

田川は「炭坑節」で有名な旧産炭地のひとつでもあり、近年の停滞振りが懸念されている地域ではあるが、若い指導者にはぜひこの農産物輸出の挑戦の現状を多くの生産者に伝え、元気を出してもらって、新たなチャレンジに取り組んでもらいたいと願っている。

東京での輸出セミナーに参加して

9日に、東京四谷 主婦会館プラザエフで、
農林水産物等輸出促進セミナーが開催された。

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(会場のプラザエフ)

これは農林水産省が行なう支援事業の一つで
今年度は、名古屋、札幌、宮崎、那覇など全国9箇所で催されている。

さすが東京だけあって、大勢の参加者を集め、白熱した雰囲気でのセミナーであった。

051211izumi セミナー冒頭で、農水省輸出促進室和泉室長が挨拶し、今年度は全国的な事業展開の成果が現れ始め、今年1~9月の輸出額は前年同期比+7.6%増の2,226億円のジャパンブランドの農林水産物が輸出されたという。

全国版のセミナーだけあって、講師も経験実績が豊富で、大変実務的で有意義な内容だった。

㈱ホクレン通商取締役の坂井紳一郎氏による香港向け輸出の実践論は、非常に参考になった。豊富な情報とそのノウハウの一部に触れるだけで、さすが輸出最先進地・・・北海道だと再認識した。輸出成功の王道は、自ら日々の努力の積み重ねであるという指摘は、本当に説得力があった。

もう一人の講師である㈱日通総合研究所町田一兵氏の講演も、物流を切り口にした対中国輸出のポイントについて勉強させてもらった。今後の市場規模には大きな期待がある中国大陸だが、物流と決済など多くの課題に目をそらすことなく、冷静にアプローチすることの重要性を改めて確認させられた。

後半のパネルディスカッションでは、講師おふたりに加え、東京海洋大学の櫻井研先生がコーディネーターを務められ、より内容が深められた。

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櫻井先生は、農産物輸出、国際マーケティングの権威であり、80年代からの農産物輸出の指南役として、国の事業にも精力的に活動されている。

櫻井先生の専門家2講師に対する「ブランドの本当の価値について」「メイドインジャパンであることの本質について」の問いと、総括における輸出事業成功の姿勢に関するコメントは、やはり問題の本質を理解している方だからこそのメッセージであったと思う。

東京だけあって、生産メーカー、団体、行政に加え、商社の方が多く参加しているのが、私の目には新鮮に映った。地方では、輸出事業に関心をもつ物流、商流の事業者がまだ十分でないところが多い。

事業面でも、行政面においても、東京と地方の連携をすすめることが大切なのかも知れない。