上海で輸入果実のすごさを知る

福岡空港を午前10時発の便に乗ると
なんと上海には10時半に到着する。

時差が1時間あるためだが、
実際の飛行時間はわずか1時間半。
東京へ行くよりも短い。

しかも、この航空会社は、
同日午後6時上海発の復路便があるから
やろうと思えば、なんと
上海日帰りが可能なのである!

九州と上海の近さを肌で感じる。

肌で感じると言えば、今回の上海は暑かった。
連日33℃を超え、外出のたびに吹き出る汗を抑えるのに大変だった。

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(強い日差しの上海中心街)

ちょうど、台湾から福建省に上陸した強力な台風5号(アジア名:HAITANG)が接近していることもあって、時折、風も強かった。

いつもはガスやスモックがかかる上海の街も
久しぶりに青空が広がり、違った町並みを見せてくれた。

折りしも、18日より上海展覧センターで
「台湾農産品展示即売展」が開催された。

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(会場となった上海展覧センター)

今年4月に60年ぶりに国民党の連戦主席(当時)電撃的に訪中したが、それにタイミングを合わせるかのように、中国政府は台湾産の果物の輸入を全面的に解禁したのである。

これを広く市民・関係業界・報道界に広めるために
国務院、商務部、農業部などの主催で
台湾産果実の展示即売会が上海で開催されたのである。

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3日間の開催であったが、初日から会場は
解禁されたばかりの台湾の果物を目指して市民が殺到し大混雑した。
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マンゴーやパパイヤ、パイン、スターフルーツ、
スイカ、豊水梨、ブドウ、茶葉、蘭鉢などの生鮮物や
冷凍食品、水産加工品、菓子、健康食品なども展示販売された。

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(殺気すら感じるほど、台湾産果実を買い求める市民が押しかける)

一個70元(約900円余り)する巨大マンゴーや25元(約350円)のパパイヤなどが次々と売れていく。
初日からあまり売れ行きが良いので、こっそり値札を換えて値上げする業者も出る始末だった。
とにかく上海市民の新しい食品・海外産農産物に対する関心の強さと購買力に正直驚いた。
「日本産果実も、こうやって市場に並べることさえ出来れば、品目によっては決して売れないはずはない!」と、つい力が入ってしまう。

050724sakki (百元札が舞い、空箱が次々と積み上げられてゆく…)

しかし、現実には、日本産の果実は、リンゴとナシ以外は中国には輸出できない
過去の輸入実績に基づく、検疫上の問題というのが中国政府の理由だが、今回の熱帯果実の即決の輸入解禁を見てみると、複雑な思いもする。

とにかく、我々の商談現場では、貿易手続きの他にも商物流において気の遠くなるような障害が多く、現状では、多額の販促予算を持っているか、時間とコストをかけた取り組みが出来ないと、その多くが対中輸出には二の足を踏むことになるのが現状だ。
中国での販路開拓と同時に、日本国内での競争力強化に向けた取り組みにもなお一層の厳しい努力が求められる。

今回の台湾展示会で、
上海人消費者の購買力の潜在性を見せ付けられながら、
一方で様々な困難に直面し、暑さと共に卒倒しそうな気分に陥ってしまった。

私は、「農産物の対中輸出は、現状では絶対に発想転換が必要だ」と結論付けている。
これからが面白くなりそうだ。ファイティングスピリットが湧いてくる。

これまた折りしも、帰国日の夜、
中国政府が人民元を2.1%切り上げることを発表した。

切り上げは、「ニッポンを売る!」には追い風になるのだが、
それ以前に解決すべきことがあまりに多すぎて、
実際にはまだピンと来ない。

中国には、挑むもよし、また避けるもよし
すべては自身の思い次第だ。

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(今、上海では、ザリガニ(小龍蝦)料理が流行だとか…)

蒸し暑い東京で変化を感じる時

最近、海外や国内地方の出張が続き、
久しぶりに東京で一週間ほど活動している。
(東京はもともとホームグラウンドでもあります)

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新宿界隈

今回は、主にIT関連の事業のためだったが、
農水産品の輸出案件に関わるようになってから
普段の生活に新たな習慣が加わった。

それは、都心に出ると、必ずデパートの地下の青果物売場を覗くこと。以前は、人がごった返していて閉口していたのだが…。
わずか数週間のことだが、季節の果物や野菜がすっかり入れ変わっていて、季節の移り変わりが目に見えて判る。
“都会で感じる旬”である。

いま店頭に並んでいたのは、山形のサクランボや山梨の桃、
岡山のブドウに、佐賀のハウスミカンなどなど。
全国から選りすぐられた商品が所狭しと並んでいる。
最近は、国産青果物の産地表示をしているお店が多いから
判別がしやすい。

もっとも私が観察するのは
食欲を満たすためではなく、
情報収集と頭のトレーニングがもっぱらの理由だ。

この店頭に並ぶまでの物流や商流は?
都心のデパートに扱ってもらうための宣伝や工夫は?
ブランド戦略の有無、消費者の反応は?などをチェックしながら
これを海外で販売するにはどうしたらよいのだろうか?
とイメージを膨らませる。

アジアの量販店では、どうしても米国産や豪州産等の
リンゴやオレンジがドーンと積まれているが、
日本お店の品数の豊富さやディスプレイの多様さには、
独特の素晴らしさがある。

よく観察していると、やはりアジア系の人たちも
1000円前後の果物などを嬉しそうにかごに入れている姿を目にする。

このブログでもたびたび紹介している
国の輸出支援機関である「農林水産省輸出促進室」を訪ねた。

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先月6月末に公表されたばかりの
「農林水産物等輸出倍増行動計画」に関する内容など
いろいろと情報交換させていただいた。
農水省のホームページにも掲載されているから
ぜひ一度目を通して、国の支援事業の理解の一助にされてみては如何だろうか。

「農林水産物等輸出倍増行動計画」
http://www.maff.go.jp/yusyutsu/k_02/itiran.html

7日にロンドンで発生したテロの影響だろうか、
新宿や池袋、羽田空港など、都心ターミナルや交通拠点などでは
特別警戒をしているのが目立った。

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中国やアジア諸国では
このような警戒警備に遭遇するのは以前からも時々あったが、
日本でも世界でコトある度に緊張感を強いられるのも
「特別」ではなくなりつつある。

マレーシアを調査

先月末、㈱伊勢丹農水省輸出促進室JETROの協力を得て、
東南アジア市場における日本農産物輸出の可能性について、
現地調査のために、
マレーシア(クアラルンプル)、タイ(バンコク)、シンガポールを周って来た。

マレーシアは、人口2560万人のうち、
マレー系が約65%、中国系が25%ということで、
言わずと知れたマレー半島のイスラム国家であるが、
ビジネスとしては中国系富裕層が主なターゲットとなるようだ。

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朝3時におきて、クアラルンプル最大の青果市場に足を運んだが、
いずこも同じ、ものすごい活気だった。
飛行機から見た風景が一面ヤシとゴムのプランテーションだったので、
さぞや農産物も自国産ばかりだろうと思ったが、
意外に、タイ産や豪州産も多く、野菜は中国産も目についた。
輸入品も決して少ないわけではなさそうだ。

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一方、シンガポールやタイへも輸出される「キャメロンハイランド」産の高原野菜は有名だ。
市場の労働者の中には、バングラディシュなどからの不法移民がいるそうだが、いずれも財布を握っているのは中国系がほとんどだ。

話しによると、マレーシアでは、商売は中国・インド系、法律関係はインド系が幅を利かせているそうだ。この国のブミプトラ政策(マレー人優遇政策)は有名だが、最近では段階的に変化している傾向にあるという。

今日(8日)の日本の経済新聞に、
伊勢丹のマレーシア3号店が設立されるとの報道があった。

LOT10店、KLCC店共に食品・青果物も充実した品揃えで驚いた。
青森のリンゴや大分の大葉なども販売されていた。
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この国の食品売り場で目を引くのは、やはり豚肉の扱いである。
イスラムの人たちが忌み嫌う豚肉であるが、
信仰の異なる消費者のために、
「NON HALAL」という特別のコーナーに、
豚肉、ハムソーセージなどを扱っているのである。
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また、同店の食品担当の方に伺ったのだが、

「日本式の惣菜も人気があって販売しているのですが、
どことなく味に深みが無く、色も照りが無いんですよ。
なぜだか分かりますか?」となぞをかけられた。

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答えは、みりんが使えないからなのだという。
そう、ここではアルコールを食品に添加できないのである。
惣菜のほかにも、カステラなどの菓子類にも
添加剤としてのアルコールが使えないので、
注意が必要なのだそうだ。
国が違えば、というところである。

伊勢丹のある界隈は、
クアラルンプルでも最も賑やかな一帯であるが、
新たに最高級ブランドショップを集めた超モダンなショッピングセンターもソフトオープンしている。
ここは、香港や台湾にも匹敵する豪華さだ。
観光客、富裕層を狙ったビジネスが展開中だそうである。

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03年は5%強、昨年は7%強の成長(GDP)を遂げており
商業の方も好調なのだろう。

ただ、食品においては、
香港、シンガポールとは消費レベルが異なり、
関税など諸コストをそのまま算入するなど価格を高く設定すると、
販売が厳しくなることもあり、
輸出により「ニッポンを売る」ためには、
コスト構造にかなりの工夫が必要だろう。
一人当たりGDP(国全体)が4000ドル弱と中国沿海都市のレベルだ。

ジャスコにも足を運んだが、
ちょうどバイヤーズデー(お得意様招待日)ということも050708kljuscoあり、
館内はごった返していた。
買っている量も半端ではなかった。

周囲の道路も大渋滞を引き起こしており、
警察が整理に出動するほど。
その物凄さが想像できよう。

この国でも、製造業と並び、
商業でも日本人チャレンジャーたちが奮闘している。

滞在時間が短く、
ゆっくり街中を観察できなかったが、
新たな発見ができそうな印象で、
機会があれば、ぜひ訪れてみたい街である。

近い将来、中東・イスラム圏にも「ニッポンを売る!」ことにでもなれば、
この地は、貴重な橋頭堡にもなりえるのである。

幻のイチジク

福岡県はイチジクの有名な産地でもある。

なかでも東部の行橋・豊前市とその近郊の
JA福岡みやこ・JA福岡豊築は、
県下でも有数のイチジク産地である。

この地区は、
「蓬莱」という品種では日本一の産出高を誇っている。

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海外のバイヤーを現地に案内した。
ちょうどハウス栽培最盛期で、
採りたてのイチジクを一口ほおばった瞬間、

 「うまいッ!」

誰もが声を上げて驚嘆した。

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早速バイヤーから、テスト輸入の注文が入って喜んだが、
実は、このイチジクという果物、
日持ちと輸送管理が
おそらく「果物一」難しい品種のひとつだということが分かって
二度驚いた。

イチジクは、ご存知のとおり、
漢字で「無花果」と書くように、
実の中に無数の白い雌花を咲かせるので
一見、花が咲いていないように見えるのだそうである。

だから、果物といっても
いわばデリケートな生花であり、
しかも、水分をたっぶり含んだ柔らかな果肉で出来ている。

この品種の出荷先も、
近郊の大都市、北九州から広島にかけての一帯に限られ、
福岡市場でさえお目見えしないという。

どおりで見た事がないはずだ。

これまで、3回にわたり、航空便で東京に輸送する試験を行ったそうだが、いずれも輸送上の荷傷みにより、失敗したのだそうだ。

  「東京にも運べないものをどうやって海外に!?」

産地の関係者も半信半疑である。

もとより、
江戸時代(寛永年間)に中国から渡来したと言われるイチジクだから、
もし、この状態で消費者に届けば、いい値で売れるはず…。
バイヤーは自信満々である。

地元にとっても、
日本一の「蓬莱」を海外の富裕層に受け入れられることで、国内での一層のブランド力向上の契機となれば、と、期待も膨らむ。

 「過去の失敗経験にとらわれて行動しないのは、後退と同じ」

生産者、JA、バイヤー、行政の考えが一致し、知恵を絞ることとなった。

県の農業試験場からも専門家を招き、
包装形態や収穫のタイミング、輸送方法などについて
徹底的に研究して挑戦することになった。

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おそらくしばらくの間、
完全成功する可能性は低いのではと予想されるが、
難度が高い問題に挑戦することで、
組織が活性化することは間違いない。

「海外へのチャレンジの経験は、
必ず東京市場への再挑戦にも活かせるに違いない!」

「イチジクが輸出できれば、アジアに近い福岡は、鮮度要求が厳しいものだって何でも提供できる!」

地元JA担当者・輸出スタッフの目が輝いていた。

挑戦は、まだ始まったばかりだ…。

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(視察中、TV放送局の取材を受ける)

都城で講演

宮崎県の都城市で講演させていただいた。

JA都城の合併30周年の記念大会ということで、
管内600名近くの生産者、流通関係者、来賓などが集まる大規模な
式典だった。

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日本有数の農業県である宮崎の層の厚さを肌で感じた。

講演では、
農産物の国内外の新しい流通や海外との輸出入の動向などについて紹介させていただいたが、ここでも2時間にわたり、皆さん熱心に耳を傾けていただき大きな手ごたえを感じた。

都城は、宮崎県にありながらも、かつては薩摩藩に属し、
もともと島津氏の先祖の出自の地だそうである。

どちらかというと、おっとりとした気風の宮崎にあって、
ここは

  「泣こかい、飛ぼかい、
   どうせ泣くなら、飛んだ方がまし」

という進取の気風があるという。

変革の時代にあって、頼もしい土地柄だ。
きっとチャレンジ精神が旺盛なのだろう。

講演後の懇親会で農産物輸出の話しをしても、
幹部生産者の「すぐやる、今やる」の反応で、
こちらが驚くほどだ。

都城管内は、畜産業がとても盛んで、
市町村単位では畜産品の生産高は日本一だそうである。

青果物では、
甘藷(かんしょ)、キュウリ、茶、ゴボウ、らっきょう、キンカンなどが並ぶ。

講演の翌朝、地元の甘藷生産農家を訪ねた。

ここでは、一般に「からいも」と呼ぶそうで、
宮崎紅という品種の超早生を選別していたが、
その鮮やかな紅色は、目を見張った。

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見栄えを良くする為にと、人手によって一本一本ひげを鋏でカットしてる。
大変な作業だ。
大きさ、グレードによって選別され、袋やパック詰めにされて
大阪、東京、福岡などに出荷されているという。

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実は、この甘藷、細長くて小さめのものが
「ミニ甘藷」として、昨年香港でブームとなり、
その人気ぶりを現地で目の当たりにして驚いた記憶がある。

とにかく主婦や若いOLが日本産の甘藷を買い求めていくのである。

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(香港の日系デパートにて 2004年12月)

その後、台湾やシンガポールでも
宮崎産、徳島産、高知産が売られているのを確認した。
この事実を日本の生産者は、ご存じないようだった。

現地の中国人は、どのようにして食べているのだろうか?

都城の生産者のおすすめは、ふかして食べるか、天ぷらにするのが
良いそうだ。

東京でもスイートポテトやチップが人気だ。
加工品への応用にもチャンスがありそうだ。

アジアマーケットでも日本産「唐芋」のブームが来るかもしれない。