(前回より続く)
アージエが指定した時刻に出向くと
青果物のコーナーには熟れたパイナップルが山のように積まれている。
しばらくすると、アージエがナタのような形をした包丁を持ってやって来た。
来てくれたんですねッ!
昨日とはすっかり変わって、自信に満ち溢れている柔らかな表情で迎えてくれた。
全身からオーラを発している。
隣にアシスタントの女の子を立たせると、
アージエはおもむろに大きなパイナップルを左手でわしづかみにして、
ナタのような包丁でばっさりと葉の部分を切り落とす。
ヒョイと放り投げて上下を反対にすると今度はお尻の部分をスパッとカットする。
すると始めの一刀だけは慎重にナイフを立てにゆっくり入れて
皮を剥ぎ取るように一太刀入れたが早いか、
あとは一気に横にずらしてザクッ、ザクッと皮を剥いていく。
あの縦長のパインの皮を一太刀で縦に剥いていくのだ。
ザクッ、ザクッ、
ちょうど半分皮を剥き終わったところで
傍らの女の子からビニール袋を受け取ると
皮を剥いてまっ黄色の果肉がむき出しになったところをビニール越しにつかんで残り半分の皮を剥く。
ザクッ、ザクッ、ザクッ、
ツルンと剥けたかのように円筒形のあのパインが出来上がり
そのビニールを表裏ひっくり返してそのまま袋詰め。
動画でアップできればいいのになあ
なんとその間、十数秒!
これは職人技だ。
その後も次々とパイナップルの皮を瞬時に剥いていく。
ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、
連続で10個くらいを休むことなく剥き終わった。
さあ、食べてくださいな。
アシスタントの女の子が試食用に細かく切ってくれる。
アレッ?? いつも繰り抜いている中央の芯の部分も一緒に??
そう、芯が硬くないのだ。不思議不思議。
一口大のパインを待ちに待っていた口の中に放り込む。
う、う、う、うまいっ!
もちろん甘いし、果汁が口いっぱいに広がるんだけれど
これまで食べたことのないクリーミーな甘さなのだ。
わざとらしい甘さでなく、ねっとりとしていて、それでいて喉を潤すような・・・。
ホテルの部屋でも止めどなく頬張った
なんだか高級アイスクリームでも食べているような感覚なのだ。
しかも、いつも生パインを食べる時悩ましい、あの歯の間に挟まる繊維質が全く無い。
もう我を忘れていくつ食べたか分からないほど頬張った。
自慢する訳だ。本当に美味しい。
何年も待った甲斐があった。
旬の力、地元の力に屈服した。
次々と売れていくから、頻繁に補充しなければならないほど
アージエのパイン皮の早剥きも数年間の訓練の賜物だそうだ。
今年、日本に実演に行く計画だそうである。
実演が始まるとあっという間に人だかりが
日本のどこかでこの味とアージエの技が堪能できるのだ。
台北で日本産のイチゴやメロンが、そして
日本で台湾産のパインやマンゴーが味わえる。
とかく日本の農業者やマスコミは海外の農業を敵視するが
アジアの農業者、生産者も同じ素晴らしい人間。
敵対するのではなく、むしろ連帯して、
世界に、アジアに蔓延しているマネー経済の弊害、食の乱れを正していく原動力になるべきであるという私の持論を再確認することになった。