国民の約76%を中国系が占めるシンガポールでも春節(旧正月)は最大の年中行事であり、街中で正月気分を演出しているのは香港とも変わらない。
いたるところ、中華の朱赤色の装飾が目に付く。
ところが、今日(1月30日)だけはどうも様子が違う。
いや、やたらと違う。
ぜんぜん違うッ!
リトルインディアを中心に、市街地をインド系の着飾った人たちが朝早くから延々と練り歩いているのだ。
いつもと違う、通りのデコレーション
最近2年間ほどリトルインディアをさまようことにハマッている僕には、とてもそそられる光景。
とにかく規模が半端じゃない。大掛かり。
実はこれ、タイプーサム(Thaipusam)という年に一度のヒンズー教の大きなお祭りに遭遇していたのだ。
それぞれ30~50人くらいの人たちが、一団となって道路を次々と練り歩く。
先頭は若い男性で、時折嬌声を上げて飛び跳ねたりする。
かなりのトランス(興奮)状態。
その後は、女性が続くのだが、みな正装のサリーを着ていて、とても美しい。
供物や、なぜかミルクの入った金属製の壷を持った人が多い。
ミルクには特別の意味があるのだろう。
これまでリトルインディアでは、おなかの肉がぼったりと付いた年配のオバチャマばかりの印象だったので、どこにこんなに多くもの若い美人がいたのか、と信じられない。
インド人は美人が多いと初めて実感。
ホント、綺麗。 デレデレデレ。
美女群に眼を奪われていると、その後にひときわ目立つ装飾をした体躯の大きな好漢(おとこ)が現れる。
リオのカーニバルのようなド派手な装飾を身に着けているのだが、当の本人はどうも楽しそうな顔をしていない。
いや、むしろ修行者のようなストイックな表情が、街の賑やかさと反比例している。
ン! んんんんんんんんッ????
よく見ると、太い金串が体じゅうに刺さっているじゃないかっ??
おなかの辺りを拡大してみると・・・
ゲゲッッ! ぶっとい支柱がおなかを突き刺してる???
すべての金串が一度皮膚の下を貫いているよぉ。足の付け根の鈴だって…
手が届きそうなほど目の前を横切るインドの行者のあまりにショッキングな姿を凝視した瞬間、クラクラっとめまいがして気を失いそうになった。
この人の上腕部や二の腕をよ~く見て! そして頬と舌と・・・
な、な、な、なんだ これは???
血が一滴も出ていない????
僕なんか未だに予防注射だって嫌いな根性無しなのに・・・。
肩から背中にかけてフックが食い込んで盛り上がってる。その紐の先は???
重そうな神輿を引いてるじゃないかっ
坊や 危ないものだから絶対見ちゃダメっ!
周りの人たちは、何事もないような平気な顔をして歩いている。
ボクも大きくなったら、こんな痛いことやるの?
僕もショッキングやら、ほのぼのやら、お祭り気分やら、トランス状態やらで暑さも手伝って、だんだん訳が分からなくなってきた。
金串をくわえてるんじゃない、ホホに刺してるんだ。背中にも無数に・・・。
ライムまで突き刺して
後ろで彼女なのか、家族なのか心配そうな顔をしている。
背中から無数のヒモが。まさか・・・
ああ~ッ! やっぱり重い台座を引っ張ってんじゃないか
これ以上、拡大してお見せ出来ません
このタイプーサムという奇祭は、あまりに危険だということで
本国インドでは禁止されていて、
シンガポールとマレーシアだけで行われているという。
ヒンズーの神への畏敬や感謝の念が極まった形の祭りのようだ。
信仰心の厚さが痛みを感じさせないということになり、
更にエスカレートしている。
奇妙な音楽や叫び声が街角に響く。全身串刺しの男は更に飛び跳ねたり、クルクル回ったりする。トランス状態にして痛みを感じさせないんだろうか。
街のあちこちで休息所や、飲料やスナックなどを無料で配る施しのテントなどがあってつい顔を突っ込みたくなる。
飲み物やカレー、お菓子なども振舞ってくれる
今、インド本国が成長しているから景気の良いスポンサーも多いのだろう。
歩きながら甘い水分を補給
学生時代に放浪したくてたまらなかった大国 ―インド。
こんなところで世界の奇習とも言えるインド文化に触れるとは思わなかった。
ホホにもベロにもヒタイにも・・・
このような一見野蛮な光景を見て、遅れた国なんだと観るか、反対にむしろ固有の精神性や実行力、文化力を持った人たちだと観るかで、これからの接し方・関わり方が分かれるだろう。
30年以上前、人民中国が巨大な人海戦術を用いて歴史的な遠回りをしたとは言え、当時、底知れぬ人間パワーを総動員させた現場を観て、これは凄まじいことだと激しいカルチャーショックに襲われたことを思い出す。
僕は、いよいよこの国と縁が深まる前触れなのかも知れない、
ふと、そう感じた。
カメラを向けて声をかけたら、とびっきりの笑顔を返してくれた・・・