独自色強める熊本の輸出アプローチ

熊本県の農産物輸出のアプローチは、
非常に特徴あるもので、とても興味深い。

くまもと農林水産物等輸出促進研究会(会長:吉川農園 吉川幸人社長)が昨年5月に設立されているが、
その構成員はすべて農業法人や企業であり、とてもユニークだ。

一般的に、農産物輸出に関する地方組織としては、
自治体が主導し、JA等農業団体、地場産品振興の外郭団体、商工団体などで構成されているのに対して、
本研究会では、今注目されている農業法人が主体となっている点だ。

(ちなみに熊本県には、別に農業団体等で構成される「熊本県農畜産物輸出促進協議会」が今年発足し、活動を展開している。)

同じ生産者でも
自らの手による販売・販路開拓というテーマに積極的に取り組んでいる組織だけに、輸出にも強い関心があり、新規事業に対するアレルギーも少ないようだ。

しかも、海外輸出というテーマに対して、
関心と「やる気」がある法人が、自ら参加している組織だから
初めから意識が高く、主体的な姿勢で取り組んでいるのである。

だから、発想も柔軟で、ユニークな活動が展開できる。

例えば、多くの県が、輸出対象地域を
上海、香港、台湾などのアジア近隣地域に集中しているが、
「研究会」では、独自性を貫き、
アメリカ西海岸を優先ターゲットにしている点などだ。

22日、ロサンジェルスから、
日系スーパーの社長とバイヤーを招き、
アメリカ向け農産関連商品のセミナーと商談会が開かれた。

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(会場となったグランメッセ熊本)

これまで、アジアでの販路開拓に携わってきた私にとって
アメリカ市場での食品事情は、とても新鮮で、大変参考になった。

セミナーではアメリカ最新事情について紹介があり、
日本のゴボウやナガイモが結構人気だということや
アメリカではBSEはあまり深刻に受け止められていないこと、
また輸入の際に、卵、乳製品、色素については注意が必要なことなど、興味深い話しが盛り沢山だった。

クチナシ色素を使っている日本のインスタントラーメンは輸入できないとか、
ヨモギ(蓬)や七味唐辛子のある成分は、麻薬に準ずるものとして輸入できないなど、
国が違えば事情も異なることがわかる。

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もちろん現地バイヤーから日本の農業法人に対するメッセージは、
人任せに売るのではなく、自ら現場に立って売り歩いてみること、
こだわり、高品質を謳う以上、直感的に差別性を訴えられる商品だけが現地の消費者に支持される
という指摘は、
アジア市場を攻める上でも共通の原則である。

セミナーの後、各メンバー法人から持ち寄られた商品を紹介する個別プレゼンが行われ、積極的な売込みを行った。

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自ら真剣に販路開拓に励む農業法人や食品企業の主体的な活動を
行政や団体がバックアップする熊本県のアプローチは非常に理に適った、
しかも地に足の着いた現実的・継続的な展開例だと思った。

今後の展開が楽しみだ。

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(個性ある農産加工食品が並ぶ)

農耕文化の窓口-糸島で考える

福岡県農業会議糸島支部で講演させて頂いた。

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(会場の伊都文化会館)

糸島は福岡市の西に隣接する山紫水明の豊かな土地で、
志摩町、二丈町、前原市からなり、
九州大学の移転に伴い、
ここ数年の発展が目覚しい地域である。

いまから約8000年前には人が住んでいたといわれ、
この一帯に「伊都国(いとこく)」と呼ばれる国が
1800年前に存在していたとが魏志倭人伝にも記載されている。

至る所に古墳があり、地名も万葉仮名のような読み方も残っていて、
考古学ファンのみならず、
遠い昔に思いをはせることが出来そうな土地だ。

会合では、糸島地域の農業、食品加工のリーダーに参加していただき
会議室は満席となった。

2時間の講演時間もあっという間に過ぎたと感じるほど
非常に熱心に聞いて頂いた。

糸島地域は、福岡商業圏を控えていることから
早くから付加価値の高い農水産物を栽培してきた。

蘭や菊などの花卉栽培は有名で、
沿岸の水産養殖業も多い。
最近では、イチゴの「あまおう」の主要産地のひとつでもある。

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(目を奪われる無数の蘭が栽培されている)

また、畜産業も盛んで、
「糸島牛」はブランド化されており、
鶏肉、鶏卵も九州では知名度が高い。
生卵は、香港向けに毎週数千パックがこの地域から輸出されている。

地元畜産農家が出資して事業展開している
高級ブランド牛乳「伊都物語」は、
福岡でもプレミアム商品として根強い支持を受けている。

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(生クリームのようなプレミアム牛乳「伊都物語」)

二丈町の「福ふくの里」は、一見どこにでもある農産品直売所、道の駅のようだが、実は、漁業関係と農業関係が対等に協力して事業展開しているユニークな直販所だ。

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どこにでもありそうだが、意外にこのような形態は珍しいそうである。
まさに「海彦&山彦」の世界だ。

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(産直野菜と天然魚介類が共に充実している)

朝9時前から、多くの買い物客が開店を待っているそうで、
開業初年度から計画を大幅に上回る売り上げを出している。

このように、糸島は、農林水産畜産と非常にバランスの取れた豊かな物産に恵まれ、
また、ユニークでチャレンジ精神に富んだ人材や組織に支えられている地域だ。

これまで、日本産の農産物がすでに輸出されているという情報がなかったため、まだ実績はないが、このような進取の気性に富んだ地域なら
きっと行動を起こしてくれるに違いない。

かつては、稲作の伝播など大陸文化交流の窓口だった土地柄だけに
現代の交流拠点として、ぜひ海外にも雄飛してもらいたいものだ。

商業ベースの中国向けのナシ輸出が遂に実現

先月24日に、福岡県産のナシ2.5トンが
中国上海に向けて出荷された。

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(出荷を待つ上海向けの福岡県産のナシ)
*写真はいずれも福岡県提供

昨年も福岡県は、地元企業の支援でナシを上海に輸出した実績があるが、今回は、産地から農業団体、物流、商社、小売店のすべての関係組織が取り組んだ、初の本格輸出となった。

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(上海の高級デパートで販売される福岡産のナシ)

中国大陸への農産物輸出は、
限定的な輸入制度、未発達の商物流など数多くの難題を抱えていて、
テスト輸出や供与は出来ても、商業ベースの輸出となると難度が極めて高く、早くから輸出事業に取り組んできた福岡県も、中国大陸向けには2年越しの実現となった。

今回、輸出実現の大きな推進力となったのは、
JA筑前あさくらナシ部会とJA全農ふくれんの主体的な取り組みによるところが大きい。

「今年は、ぜひ私たちのナシを海外に輸出したい!」という年初からの産地の熱意は、ただならぬものがあった。

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(自慢の福岡県産の豊水梨)

福岡県の農産物輸出のトータルコーディネートは、
今年発足した福岡県農政部
「福岡の食・輸出促進センター」である。

促進センターでは今年、
輸出に関心を持つ、やる気のある産地を募り、
きめ細かいサポートを展開している。

海外の販路開拓も、輸入商社、および上海の高級デパートである久光百貨さんの協力を仰ぎ、商流を築いた。

産地側もJA組織が積極的に動き、品質チェックや梱包等にもに気を遣った。

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(輸出のために、産地が品質チェックに万全を期した)

また、今回特筆すべきは、海外輸送に航空機ではなく「上海スーパーエキスプレス」が使われたことである。博多-上海間を27時間で結ぶ高速貨物船で、RORO船と呼ばれるトレーラーごと積み込むことが出来る、いわば海上国際シャトル便である。鮮度とコストの両立が求められる青果物の海外物流において、日本で唯一、上海港との間で高速定期航路を持つ博多港のポテンシャルは非常に高いのである。

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(上海スーパーエキスプレスに船積みされる貨物)

つい数ヶ月前までは、あまりに立ちはだかる困難が多く、あきらめかけていた中国向けのナシの輸出が実現したことは、実に大きな前進である。

特に、生産者、農業組織、商社、物流、小売店、そして行政が有機的に連携したことの意義はとても大きい

関係者の努力に心から敬意を表したい。

今後、この輸出が継続できるのか、福岡ブランドが認知されるか、ナシ以外にチャンスはあるのか、など難題が山積している。

13億人のマーケットの入り口にようやくたどり着いたばかりだ。

秋のバレンタイン商戦?

香港に出張した。

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(ネイザンロードの夜景)

相変わらず最高気温32℃の蒸し暑い香港の街だったが、
外出も億劫になるような一時の暑さのピークに比べると
少しは凌(しの)げそうな気もするが、
体にこたえることは間違いない。

それでも暦の上では、9月18日(旧暦8月15日)に、はや中秋を迎える。

ということは…。

やはり思ったとおり、
大型の百貨店の地下食品売り場は、
ほとんど月餅コーナーに占拠されていた。

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イメージとしては、日本の1月末ごろから
バレンタイン商戦向けのチョコレート売り場が
食品売り場を占拠しているのと、まったく同じ。

バレンタインに全く縁のない僕がひと月間
閉口してしまうあの感じだ。

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香港や台湾、中国などでは、中秋節に月餅を贈る習慣があり
親しい友人や取引先などにプレゼントするのである。
会社がまとめて購入することもあるそうで
メーカーにとっては、一年の売り上げをここで稼ぐ大事な時期なのである。

ここ香港でも最近は、有名ブランドの缶入り定番ギフト以外にも
デザインが工夫されたり、洋風のケーキのようなもの、
アイスクリームでできたアイス月餅、
冷やして食べる「氷皮月餅」などというユニークなものまである。

まもなく開園を控えたディズニーのイラストの付いた缶に入った月餅も売れており、トピックを感じさせる。

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(台北の百貨店地下売場でも)

月餅の上に金箔がのっている程度は許されるが、
昨年、バブルの様相の中国で、
月餅の中に金貨や旅行券を入れたり、
住宅つきなど豪華景品をつけた「バブル月餅」が登場し、
景品目当てに月餅を食べないのは浪費であるとして、
中国政府は、7月に華美を規制する通知を出したという。

贈賄汚職につながったり、華美な包装材が大量のゴミを発生させたりするためだと言われている。

この時期、月餅以外にも
乾し椎茸や貝柱、ふかひれなどの高級乾貨物のギフトセット
コーナーで販売されていた。

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(椎茸や貝柱等の高級食材ギフトも良く売れる)

また、満月にちなんで、この頃出荷されるナシ
売れるようになった。
鳥取県の20世紀ナシをはじめ、
昨年からは、日本の複数の県の豊水などの赤ナシ
売られるようになり、
旧正月(春節)に次ぐ有望なギフト商戦と位置づけられている。

台風の恐ろしさを体験

香港・台湾に出張した。

おりしも、ちょうど台風13号(漢字名:泰利)の来襲に遭い
ひさしぶりに出張先で台風を経験をした。

31日午後、台風襲来を承知で、
香港から台湾へ強硬移動。
空港に着くや、激しい風雨に見舞われた。

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(台湾・中正空港で)

上陸は翌朝ということで、
夕刻数時間ですべての用件を済ませ、
ホテルへの帰路、
車から降りたその瞬間、
足元から信じられないような強い風が吹きあがり、
一瞬、視界が無くなり、息が出来なくなってしまった

吹き飛ばされそうな体を支えるのに精一杯で
道路に立ち尽くしてしまった。

もちろん、全身ずぶ濡れになったが、
何度も日本で台風は体験しているが、
一瞬とはいえ、路上で動けず、
体が飛ばされそうになった恐怖体験は
初めての事
だった。

きっとこれが風速4~50メートルという状況なのだと思う。

31日夜のニュースで、
南部では、夜にもかかわらず、
36℃の強い熱風が吹き荒れたのだそうだ。

亜熱帯の台風の凄さを身をもって体験した。

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翌早朝、上陸後の台風の目に入っている間、
静まり返った街中を散策してみた。

街路樹が根こそぎ倒れていたり、
看板が外れたりしており、
時折吹き付ける強風に、思わず緊張してしまう。

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午前9時になっても、台北の大通りは、
人も車も往来していない状態で
こんな光景は異様だった。

学校も会社も臨時休校や全面休業だからである。

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(普段ならバイクと車で渋滞の朝の通勤時の目抜き通り)

テレビニュースでも、中南部の農村部の惨状を伝えるものが多く、
土砂崩れや決壊、浸水などの報道とともに、
産業別では、やはり農業、
特に果実の被害が甚大になるとの予測である。

台北市の青果の卸売価格も平均10~15%上昇しており、
一部ブロッコリーが20%、レタスが132%アップという報道もあった。

実際に早朝の台北最大の濱江青果卸売市場に足を運んだが、
人影はまばらで、テレビの取材クルーの姿が目立つくらいだった。

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(閑散とする卸売市場)

農業はどうしても自然災害に左右される。

先の台風5号が台湾を襲い、50年ぶりの被害をもたらしたと言われているが、ある台湾の輸入商社一社だけで、
このひと月間に日本で暴落した群馬県産キャベツを
19コンテナ(40フィート)も緊急に買い付けたという。

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そう言えば、台北のある高級スーパーでは、
地元台湾産のしおれたキャベツより、
立派な日本産キャベツの方が3割ほど安くてビックリした。

物流や商流が構築されると、台風などをきっかけに
思いがけない事態が起きるということだ。

危険と隣りあわせだったが、いい経験をさせてもらった。