あちこち出張していると、
ビックリするような事に出くわすことがある。
犬でも棒に当たるくらいだから、戌年の僕だって同じだ。
時にはその土地の歴史的な出来事にだって・・・。
今回もそうだった。
ここは台湾タイペイの総統府前。
この日の台湾総統府
総統選挙を明日に控えた運動最終日の夜9時過ぎ。
数万人はゆうに数えるおびただしい群集が、耳をつんざく様な声援とボンベ式の警笛ラッパを鳴らしながら野党国民党候補応援の大集会を行なっているではないか。
その規模とすさまじい歓声は熱狂そのもの。
台湾の選挙はヒートアップするとは聞いていたが、まさに言葉の通り。
群衆の中に分け入り、自分の体を熱気の渦に委ねてしまうと、関係ないはずの自分までが酔っ払ったような錯覚に陥ってしまう。
陶酔状態の演説者の張り上げる叫びに呼応して、360度から湧き上がってくるつんざくようなどよめきとラッパの音で鼓膜が破れそうだ。
いま群衆の中で何が起こっても身動きが取れない危険な状態・・・。
もうこのまま永遠に続いてしまうのではないかと思われるほどの自我喪失感に浸っていたが、怒涛のような人の流れに身を任せて大群衆の塊の中から押し出されると、途端に正気に戻ってホッとする。
冷静になって観察すると、周囲は意外に縁日気分。
陣営のロゴの入ったTシャツやベスト、帽子などを売る輩もいる
そう、日本でもあちこちにあるような興奮と緊張感を引き起こすお祭りと同じなのだった。
馬候補グッズも売れている・・・
調子に乗って与党民進党側の拠点にも足を運んだが、どうも野党国民党のほうが圧倒的な勢いがあった。
昼間街頭を歩くと与野党双方のスローガンやポスターが目に付く。
与党候補ののぼりも目に付く
「2億人もの中国人労働者が入ってきて、あなたは心配ないのですか?」 ― 与党民進党のスローガン
独立色、政治色で逆転勝利を狙う与党民進党のスローガン
台湾を守れ、大陸に飲み込まれるなと主張する緑を基調カラーとする与党に対し、改革と開放こそが低迷する経済を打破する唯一のチャンスだと訴える青が基調カラーの野党国民党。
停滞する台湾経済の改革を訴える野党国民党のスローガン
いつの間にか国民党は改革政党、反腐敗・汚職追及政党に変わっている。
アジアはどこの国も権力者の腐敗に頭を痛めている
8年にわたる野党だから当たり前の主張だろうが、かつてのイメージが残る僕の頭の中は混乱してしまう。
昨年末韓国で、続いてアメリカ大統領の予備選挙。
そして台湾の総統選とまさに選挙イヤーだが、海外の二大政党制は主張が明確に対立しているからわかりやすいし、またヒートアップすることで政治への関心がいやでも高まる。
テレビを見ていても、トーク番組はどこも興奮バトル状態だし、候補者のコマーシャルは危機を訴える激しいものもあれば、相手陣営を徹底的にこき下ろすネガティブキャンペーンも日本では考えられないほど物凄い。
一方わが国の政治と言えば、
理性的ともいえなくはないが、政党の哲学が曖昧で争点が見えにくいから十分に機能していないような気がする。
もっとも国民性がそうさせているのかもしれない。
ビジネスの現場でも問題が起こると、ハッキリと持論を主張し議論するのではなく、根回しで妥協点を見つけるか、もしくは腹に一物を抱えながらグッとこらえ、男は黙って・・・という美学があるから表面的に対立する事は少ない。
台湾の歴史が大きく変わる現場に身を置いてみて、言葉に言い尽くせない「時、地、人」のもつ異様な気を同体験のライブで感じ取った。
吸い取ったこの歴史的変節の大いなる気を僕はどこで放電しようか?
これから台湾はどこへ向かうのか・・・