(前回から続く)
アユタヤの農村を訪ね、農村でのゆっくりと時の流れるような生活ぶりに接し、アジア共通の文化と自然との共生に心和ませる一方で、これからこの土地にも荒波が押し寄せてくるかも知れないという肌寒い予感も感じた。
タイはアセアンの統合が進めば進むほどその地位を確固なものにするため、世界中からの投資を呼び込むことに注力している。
バンコクの街
特に自動車産業に対して積極的で、日本の自動車メーカーは勢ぞろいした上に、世界中の関連企業が集積し「東洋のデトロイト」になるべく国家戦略をすすめている。
バンコク郊外の自動車ディーラー
そのために貿易投資の制度改革を進め、世界各国とFTA・EPAなど二国間の自由貿易の協定を結んでいる。
以前は道路事情が原因の渋滞も、今は明らかに台数増加が
農業大国である中国やオーストラリアともFTAを結んでおり、ますます近代化・工業化が進展しているようだ。
経済的な豊かさや利便性を求める気持ちは、どこの国だって同じ。
高層ビルが林立するバンコク
その結果、今タイの柑橘類は海外からの輸入が増大し、壊滅的な打撃を受けていると聞いた。
アユタヤの生産者から頂いたタイミカン
同時に海外からタイ産農産物の買い付けも増え、特にユーロ高を背景にヨーロッパ勢や中国、ロシアなど新興発展国からの比較高額・大量の引き合いも多くなったという。
これまで日本向けに輸出していたタイのサプライヤーも、最近は日本側の品質に対する要求が尋常ではないほどの厳しさになっており、価格は安く、注文数量ロットも少ないという三重苦で、しかも日本国内では国産はホンモノ、海外産はすべて偽モノという排他的な意識が蔓延していると映り、今後急速に輸出マインドが下がるだろうと、むしろ今後の日本の食糧はどうなるのか心配だとすら漏らしていた。
日本に向けて輸出する機会がドンドン減ってゆく・・・
私たちは輸入が減れば自給率が上がるからいい、と単純に喜べるだろうか?
そうなると、日本の生産者とスピード感を持って取り組まなければならない課題はあまりにも多い。
タイ・アセアン諸国の経済もいよいよ日本に追いつけと、その背中が見えるところまで来たようだが、おそらく農村ではかつての日本と同じ状況が待っているのかもしれない。
アユタヤの畑
昨年、コメの輸出量世界一のこのタイが、輸出に制限を加えると発表した。
資源保護、価格維持など自国民の食を守る動きが輸出国にも広がっているのだろうか。
経済のグローバル化が進みゆく中で、資源ナショナリズムの台頭を恐れる。
私は、グローバル化が進むからこそむしろアジアの農業者や専門家たちが団結して、膨張したマネー金融至上主義の修正に立ち上がる時が来るだろうと予測している。
21世紀の新しい社会の枠組みや次世代の生き方・思想は、一次産業や環境視点から形成されると信じているからでもある。
今、地産地消とか輸出促進といっているが、まだまだ日本の農業者にはアジアを舞台にそのリーダーとしてもっと大きな使命と可能性が潜んでいるに違いないと訴えたい。
偏向情報、感情論だけを根拠に、内向きの議論ばかりしていては正しい判断が出来なくなることを私たちは歴史的に体験しているはず。
過去の延長でしか将来の動向を読まなくなると、必ず悲観論・攘夷論になる。
視察先で、レモングラスティーを振舞ってくれた。
あつあつのお茶を氷を張ったコップに注いでくれる。
その甘い香りと優しいいたわりの情に心が洗われる。
農業生産者の暖かさはアジア共通の財産・・・
自然と共に生きるタイ農村の姿も変わっていくのか
その意味で「39」や「40」という数字が一体どんな意味を持つのか、私はいま再考させられている。
海外を観ることによって、日本の持つ財産を再認識し、将来の可能性の姿が見えてくることもある。
田中 豊
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