回想 -現代ゲテモノ食材考

今、ジビエが熱い。

各地でイノシシや鹿を加工調理して、レストランやお土産として供されるようになった。

今ではお洒落な食材として盛んに良いイメージで売り出し中だが、半世紀前の私がまだ子供の頃にも、シシ肉、シカ肉をはじめ、カエルやスズメ、ウズラ、兎肉は食べられるところはあった。

ところで普段では食べない「かわり種」食材として好きな人は好きだが、一般には目を背けられる、あるいは外国人から見ると奇異に思われるものもある。

馬肉、ナマコ、ホヤ、むつごろう等。

鮮魚の活き作りや割いて焼くウナギの蒲焼きなども、外国人から見れば、俗にゲテモノ食いと言われることもある。

鯨肉に至っては、政治問題化してしまうほど食材と文化は密接な繋がりがあり議論が絶えない。

しかし、ゲテモノという呼称は、我々が勝手にそう呼んでいるだけで、ここでは「かわり種食材」と呼ばしてもらう。

ここからは「閲覧注意」なのだが、私がこれまで食べたことのある「かわり種食材」を挙げてみると、

熊の掌、駱駝のコブ、象の鼻、ヤギの乳、ワニ、ヘビ、ダチョウ、サル、センザンコウ、アリクイ、ハクビシン、赤狗、猫、ネズミ、サソリ、アリ、ミミズク、鳩、キジ、野うさぎ、コブラ、シカ生肉などを覚えている。

そのほとんどが1980年代前半の中国広東省か雲南省である。

この頃までは、「広東では四つ脚で食べないのはイスとテーブルだけ」と豪語し、「かわり種食材」のことを「野味」と言って普通に食べていた。
広州には野味香餐庁という由緒ある料亭があり、清平路という通りの市場には、生きたアリクイやサルなどさながら動物園のようで、普通に路上で売っていた。

それが改革開放政策、アジア大会や北京オリンピックの開催、SARSの流行などで一遍に姿を消してしまった。(前述の清平路の野味市場はペットショップに様変わりして再び売っていたのを見て中国人の商魂の逞しさに驚嘆した。)

それでも今では、広州でもペットブームで野味は批判の的になっていると聞く。コロナ禍の今だから、尚更そうであるに違いない。

食は世につれ、世は食につれ。である。

僕のお気に入りカフェ

海外でも出張で同じ街に繰り返し行くと、自然とお気に入りのレストランやカフェが出来るもの。地元の人に案内されて知るお店、ガイドブックに出ている有名店もあるけど、独りで何も知らずに偶然にフラっと入った店が居心地がいいと、私の場合、お気に入りの店になることが多い。

シンガポールに私のお気に入りカフェがある。

場所は、有名な観光地であるサルタンモスクの裏路地にポツンとたたずむ何の変哲もない外観のカフェ。その名も「東坡」(トンボー)。北宋の大詩人-蘇東坡から取った屋号か。

レトロな趣きの店内が旅情を一層高めてくれる。

と、ここではや、お気に入り候補に挙がる。

解放前のノスタルジック・チャイナの雰囲気だが、決して古臭くなく、しかもこの国でポピュラーなファーストフード形式などのセルフ式でない、日本に普通にみられる喫茶店に近いのがかえって新鮮だ。

客も普段は屋台や飲茶楼では、騒々しくおしゃべりを楽しむのが常のシンガポーリアンも、この店では思い思いに読書やスマホに興じたり、静かに会話を楽しんでいる。

注文するのは決まってカヤトーストのセットメニューだ。

ほどなくすると、往時を偲ばせる旗袍(チーパオ)を纏った若い店員さんがトレーに乗った軽食を運んできてくれる。香ばしく焼けたトーストの香りとともに。

日本で今流行りのふかふかのパンとは違って、むしろ正反対の痩せた感じのパンにカヤジャムというシンプルな甘い香りのするジャムに厚めに塗ったマーガリンが特徴の南国風のスナックである。

私はなにを隠そう、ここのいたって分厚い不健康なマーガリンが大の好物なのである!

それとこぼしているのか、それともわざとそうしているのか、いつもソーサーにあふれているコーヒーがこの店の印象的な風景なのである。トレードマークの蓮華の形をしたティースプーンも影をひそめるほどである。

それにまた、お決まりのドロッとした半熟の卵がなぜか二個添えられている。これにキリっと香ばしい上抽を垂らすともうご機嫌な気分に包まれる。

この小宇宙が私の心をとらえて離さない。

ここ南洋の地にあって、遠く故郷を偲ぶ華僑一世たちに想いを寄せるようなそんな喫茶店である。

まず足元の良さを知らねば

「上海から福岡まで、飛行機でわずか一時間半です。東京より近いんですよッ」

「福岡―プサンと福岡―松山間は、それぞれ直線距離でほぼ同じことを知っていますかっ」

 などと講演の時に、少し物知り顔で紹介していたら、

なんと瀬戸内海をはさんで、岡山と高松というふたつの県庁所在地が、快速電車でわずか50分余りで結ばれていることを、今まで私は知らなかった。

何も知らないのだ。自分の国のことですら…。

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(列車は瀬戸大橋を渡って行く…)

出張の折に、香川県高松市に立ち寄った。

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生まれて初めての訪問地は、やはりワクワクする。
少しでも時間を惜しんで街中を歩き回りたい生来の癖が頭をもたげる。

ここ数年、大河ドラマファンの私は、源義経の屋島戦跡があちこちにあるというだけでもう興奮してしまう。もっと時間があったら、屋島一帯をぜひ歩いてみたかった。

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(高松平家物語歴史館のロウ人形)

日本の名園「栗林(りつりん)公園」は、広大な敷地のどこに立ち止まっても言葉が出ないくらいの絶景だった。

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この季節、ほとんど松の樹しか目につかず、11月だというのに、特に紅葉が綺麗な訳ではない。
まして、菜園や果樹園には興味があっても(!?)、庭木には興味がなく、風流心も人並み程度なのだが、その私が、とにかくその完璧なまでの美しさに感動した。

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「ニッポン万歳!」と心の中で叫んだ。

おりしも前々日、上海で「豫園」という古い明代の名園を訪ねたばかりだが、中国の人にとっては侘び寂に感じる庭石(玉玲龍と呼ばれる名石)にも、正直、私には頭で解析してみてもピンとこない。

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(上海の名園と謳われる豫園)

それに引き換え栗林公園の造形美には、やはり日本の文化も洗練されていて文句無く素晴らしいなと感じてしまう。

ご当地に来れば、当然、名物「讃岐うどん」をいただかなければ話にならない。

これもとにかく筆舌に尽くしがたい美味さで、小麦、醤油、薬味の洗練された食文化の妙を舌の上で感じ取った。

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(自分で暖めて作るセルフ式では、はじめ惑ってしまう)

半日に4杯もうどんを食べたのは、もちろん生まれて初めてである。

うどんと言えば、私が海外に頻繁に行くようになった20年位前から、香港では「烏冬麺」、台湾では「烏龍麺」として、普通に家庭料理素材として、スーパーや麺売り店でどこででも買えたのには、当時ビックリした。

日本のうどんは、早くから国際的にデビューしていたのである。しかも、日本語の音のままで。

いつか必ずこだわりの食を求めて、アジアでも讃岐うどんのブームがやってくるに違いない。

海外事情を収集するのも結構だが、わが国の知識や素晴らしさをもっと知っておかなければならないことを高松の街は教えてくれた。

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(今年前半、水不足に陥った四国地方)

海外を取り込むスピリット

佐賀県西部に位置する白石(しろいし)町にある杵島(きしま)農業改良普及センター主催の勉強会に参加させていただいた。

金木犀の香りがする駅を降り立つと、延々と刈り取った後の田んぼが広がる。

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ここは県の機構であるが、所長をはじめ、若い職員にいたるまでとても勉強熱心な皆さんだった。土地柄なのだろうか。情報交換の場では、次々と質問や意見が出され、予定時間を大幅に超えてしまった。

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(センター全景)

ここでは水稲以外に、タマネギは全国トップクラスの生産高を誇り、ほかにもアスパラガスやレンコン、花卉、イチゴなども栽培されているそうだ。

技術開発にも熱心なようで、閉会後、面白い生食用の葉野菜を紹介してもらった。一見なんでもないサラダ菜のように見えるが、よく見てみると表面に**が噴いているようなとてもユニークな形状だ。

こりゃすごいインパクトだ! しかも、葉を生で食してみると、なんと**味がするではないかッ! すごい! 話によると、何でもアフリカ原産の品種を改良したものらしい。

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(残念ながら、まだ公表できない)

現在開発中なので、実は詳しく紹介できない。ごめんなさい。量産できれば、近いうちに、杵島**や白石**というサラダ野菜が発売されることになるかもしれない。お楽しみに。

こんなインパクトある商品であれば、国内市場と同時に海外にも輸出してみたらどうだろうか、と考えてみた。「技術革新」「販路開拓」このふたつを自分たちの手で行えば、これはすごい自信と活性化が図れることだろう。

また、地域の女性グループが開発したという、地元産大豆を使用したテンペを紹介してくれた。テンペとは、インドネシアで食べられている大豆の発酵食品で、納豆そっくりである。

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(商品カタログより抜粋)

現地では油で揚げたりして食べられているが、日本の納豆と違うところは、粘り気がなく、あの特有の納豆臭さがない。大豆イソフラボンをはじめ栄養価も高いらしく、コレステロール値や血圧を下げる効果もあるということで、最近、健康食品として、日本でも食べられるようになった。

どっこい日本の女性生産者もやるではないか。
「日本商品は海外ではすぐにコピーされるから」などと屁理屈を言わずに、しっかりと海外の良いものを取り入れてアレンジして開発している。こうでなくちゃ。本場に逆輸出する事だってありうるかもしれないゾ。

白熱したやり取りを終え、とても心地よい疲れを感じて、白石の町を後にした。