内陸を疑う 成都紀行(その5)

家用車の普及やファッションへの関心の高さに触れて
私営経済の活発さを感じたのだが、
地元政府(役所)に行って、また驚いた。

省や市の人民政府の本庁ビルとは別に
四川省と成都市は連合して、巨大な市民サービスセンターを新設している。

日本で言えば、県庁と市役所が共同で行政窓口を運営するようなもので、普通にはとても考えられない。

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四川省&成都市連合の行政サービスセンター

これがまた立派な建物で、すべての行政サービスの窓口が揃っており、ここへ来ればほとんどの行政関係の手続きをワンストップで解決してくれる。

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すべての行政窓口が揃う

教育や医療、公安、衛生、交通、計画生育、会社登記などあらゆるサービスであり、もちろん成都市や四川省に投資を行なう外国企業に対するサービスもここで一元的に行なう。

060528gaisyo_1 外国企業の投資を一元的にサポートする

市民が窓口で相談すると、その内容によって、その場で解決や翌日までとか一週間以内など規定のタイムリミットが示され、それまでに行政が解決できなければ、相談者は別途独立した苦情相談部門で提訴することも出来るのだ。

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大勢の市民が来庁していたが、どこもスムースな感じで手続きが行なわれている様子だった。
もしこれが本当だとすると、革命的な変化だ。

現に、ここまで徹底して行政サービスを一元化ているところは成都だけで、これまでも北京や上海、江蘇省、広東省の各都市からも行政幹部がひっきりなしに視察に訪れて来るという。

また、ちょうどここを訪れた日に、成都市政府では新たに商務局が誕生し、それまで国内流通管理部門と対外経済部門が合併し、内外の経済商業部門を一手に管轄することになった。

新商務局の高官たちも大変熱意を示し、日本企業とのビジネス交流を活発化させたい表明した。

都市の中心部に華西医科大学という古くから有名な医学系の名門校がある。現在は四川大学と合併しているが、この大学病院を訪ねてまたビックリした。

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一日1万人が来院するという。とにかくデカイ

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広大な駐車場が自家用車で満杯

とにかく大きな病院で、ベットが4000床を超え、これは世界一のギネスものなのだそうだ。設備も最新鋭の機器を揃え、独立経営で一日約1万人の患者がここを利用するのだそうだ。

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日本の大学病院と少しも変わらない

大学病院の漢方製剤開発室長で、西洋医学・漢方医学一体治療(中西結合)の責任者でもある李教授と知古を得、中国医学と今後の日中ビジネスの件で情報交換を行なった。

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医学部キャンパス正門

また四川省は古くからの漢方薬材の宝庫で、成都市の北地区の漢方原料卸売市場は中国一の規模を誇るという。

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とにかく広かった・・・

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日本人の多くも健康・長寿を願い、中国医学や漢方に強い関心を持っているが、このネットワークを通じてまだ知られていない様々な知識や情報をこれから発信していこうと思う。

FOODEX JAPANでもニッポンを売る

14日から千葉県幕張メッセで
第31回国際食品・飲料展(FOODEX JAPAN 2006)が開催された。

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(会場エントランス)

期間中、10万人に迫る動員を誇るこの商談会は、世界三大国際食品展のひとつにも挙げられている。

思えば、今から22年前、私が北京に駐在していた当時、中国の食品貿易の唯一の窓口商社であった中国糧油食品進出口総公司から
「日本で事業効果の高い食品展示商談会に出展したい」と言われ、このFOODEXを紹介し、日本の主要輸入商社が共同で受け入れ体制を整えて、初めて中国ブースが実現したときのことを懐かしく思い出す。

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(今年の中国ブース)

久しぶりに中国食品館を視察したが、中国全土から出展者を集め、一大勢力となっていた。

て、ここでも初めてFOODEXにブースを展開した新コーナーがある。
それは、まさに「日本食品の輸出促進コーナーである。

「ニッポンを売る!」アクションに携わる者としては、とても嬉しいことだ。

ジェトロ(日本貿易振興機構)農水産課がプロデュースするもので、和のひろば」と称する一角にセミナー会場と輸出に挑戦する全国24団体による商品展示コーナーを設け、日本食品を海外に発信するブースがここに誕生した。

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(日本食品輸出促進コーナー)

私もジェトロの要請を受け、会期中、セミナーのパネリストと参加全ブースへのアドバイス活動を行なった。

食品輸出セミナーでは、台湾、香港、シンガポール、タイのバイヤーも登壇し、各地のマーケットや日本食品の販売事情などを紹介した。

日本食品がすでに定着しつつある香港・台湾とこれから次の可能性を含むシンガポール・タイ、そして誰もが関心を持つ巨大市場-中国のマーケット比較は、参加者の貴重な参考になったと思う。

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(日本食品輸出のパネルディスカッション風景)

展示ブースでは、北は青森から南は鹿児島まで、全国の食品企業や団体がバイヤーとの出会いや情報を求めて積極的にプロモーション活動を行なった。

すでに輸出実績の豊富な青森県の農業法人(リンゴ)や静岡県の製茶企業(緑茶)、各地の酒造メーカー(日本酒・焼酎)も参加し、さすが販促活動に習熟しているなといろいろ勉強になった。

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(経験豊富な出展者のブースには何故か次々と有力バイヤーが現れる・・・)

ただ、ほとんどの出展者が、輸出については初めての企業が多く、「どうしたら一歩が踏み出せるか?」「安心できるパートナーを探したい」という点で試行錯誤しているようだった。

海外の商談会では、来場者が当然、海外企業バイヤーばかりなので、一見、ストレートに商談や情報収集につながるように思われるのに比べ、FOODEXとはいえ日本での商談会では日本人の来場者が多く、外人バイヤーが少ないことが物足りないように感じられる向きもあるが、特に地方の企業にとっては、実は必ずしもマイナス点とは言えない事実もあのだ。それは輸出を始めてしばらくすると自ずと判ることである。

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(NHK「経済最前線」クルーも取材に来場)

しかし、今回は初めての試みったこともあり、輸出促進のブースであることの演出やより効果あるビジネスマッチング実現のための改善点はいくつかありそうだ。

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(輸出促進ブースにも多くの来場者が集まった)

とにかく、日本食品輸出促進コーナーが、このFOODEXでも中国館同様、近い将来、この巨大会場にあって、一大テーマ館を構成できるよう、今後の展開を期待している。

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(今年のFOODEX会場遠景)

毎年好評の食品ビジネスイベントが開催される

る3月20日、福岡市で「FOOD2006 in FUKUOKA」が開催される。

この事業は、福岡市福岡商工会議所、(社)福岡貿易会ジェトロ福岡貿易情報センターの4者で構成される「福岡アジアビジネス支援協議会」が主催するもので、在福岡の各国貿易代表機構も後援している。

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今年の事業は、中国、イタリア、カナダ、タイ、台湾、韓国、シンガポールから50社近くの企業が集まり、品質や価格、安全性などに特徴ある食品・食材を展示商談する「新食品・食材商談会」とその食材を用いてプロの調理人がアイデア料理を競うキッチンデモンストレーションが目玉の「福岡対話」の二つのイベントで構成される。

実はこの福岡市のFOOD事業は、過去6回にわたって毎年開催されており、すでに圏内の食品関係業者の間ですっかり定着した評判の事業なのである。

その理由は、第1回目からこの事業は、「個性も特徴もない商談会やセミナーにしない!!」「出展者にも来場者にも役に立たない、主催者の独りよがりのイベントにしない!!」というスタッフの強い意志があった。

東京や関西と異なる九州圏の食品企業のニーズを事前に徹底的に調査し、日本側需要家が求める商材をアジアの各企業に準備してもらうことと、福岡対話と称するシンポジウムでは、その時代の半歩先ゆくテーマ、たとえば、輸入食品の安全性、ITと食品、地場食品の輸出などを常に情報発信し続けてきた。

今年もアジアを中心に、欧米企業も一堂に会して、個性ある新商品を出展提案してもらい、食べ方のレシピも実演で提供するという新たなコンセプトで「食都福岡」「食品ビジネス拠点都市―福岡」を情報発信する。

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毎年毎回、進歩・進化する今年の事業には、すでに過去最高の来場希望者のエントリーが事務局に寄せられている。食品関連の企業、企画関係の方は、ぜひ参加されることをお勧めしたい。

開催日: 3月20日(月)
会 場: ソラリア西鉄ホテル8階大宴会場「彩雲」

プログラム:
「新食品食材商談会」 10:00~18:00
「福岡対話」キッチンデモンストレーション 10:30~16:00

参加: 無料

申し込み・問い合わせ:
福岡商工会議所経済部国際センター
TEL:092-441-1117  FAX:092-474-3200
E-mail:kokusai@fukunet.or.jp

ブランド対策セミナーに参加して(2)

…(1)から続く

ミナーの後半は、作家で金儲けの神様として知られる邱永漢氏が登壇して、「中国・台湾で勝負する農産物の日本ブランド確立に向けて」と題する講演をされた。

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実は、邱先生が9年前に福岡で基調講演をされた後、パネルディスカッションのパネラーとしてご一緒した時以来、2度目の再会となった。それ以来、邱先生の著作や行動については、ずっとチェックを入れている。

だから、邱先生の言論や発想は多少知っていたつもりだったから、日本の農産物を中国や台湾に輸出するというテーマについて講演されるとはとても意外だったのだ。

060311Qsan2 なぜなら、邱さんはこれまで、永田農法の中国での展開を提案したり、コーヒーや日本そばの中国での栽培に挑戦されているから、日本からの輸出ではなくて中国に移って生産せよという、発想としては逆なのではないか、と感じていたからだ。

講演は相変わらずの名調子で、会場を大いに沸かせた。まるで名作落語を聴いているような心地良ささえ感じてしまう。パワーポイントに頼る私の講演などは、まだまだ修業の余地がありそうだ。

060311Qsan3 やはり日本産の農産物の輸出について、邱さんは、とても難しいのではないか、と本音を漏らされた。生産コストが大幅に安い中国に対して、高コストの日本産農産物を恒常的に販売することは、邱さんの原理原則では、やはり反対なのだろう。

私はそれを聞いてむしろホッとしたほどだ。ホッとすると同時に、ますますファイトも沸くというものだ。

でも、最後には
「私は日本産の農産物がどうしたら中国で売れるのか、その答えは持っていない。普通に考えれば、とても難しいと思うからだ。もし、売れるような情報があったら、むしろ私に教えて欲しいくらいだ。皆がグズグズしているうちに、私はサッサと行動に移しますから」と。

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会場は大いに沸いた。さすが邱先生。
齢82歳にして、この発想と行動力。脱帽する他ない。

同行の方が、講演終了後に邱さんに題字を求めたら、丁寧に一字一字筆を走らせてくれた。

毎日、聞いたことのないことを聞き
毎日、見たことのないものを見る
          邱 永漢

また、大いに刺激を受けた。

ブランド対策セミナーに参加して(1)

東京・虎ノ門で、農水省、関東農政局等の主催によるブランド保護対策セミナーが開催された。

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(セミナー会場)

中国・台湾への農水産品の輸出に関わるブランド保護対策に関するセミナーは、国内でも新らたな試みらしく、たいへん勉強になった。

やはり東京、大阪には、このような情報収集の機会があるから
私のような活動をしている者は
平素出来るだけフットワークを軽くしておき
情報源を広げておかなければならない。

セミナーの前半は、中小機構国際化アドバイザーの太田光雄氏による「中国・台湾における日本産農産物のブランド保護対策」についての講演だった。

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実は、太田先生は、私が20年ほどまえ前職当時、住友商事の中国食品関連のご担当をされており、数年間にわたり、よく一緒に仕事をしていたのだ。

早くから中国に対してとても造詣が深い方で、まだ駆け出しだった私に、いろいろと教えていただいたことを思い出す。

講演では、中国における商標・ブランド戦略など知的財産権に関する様々な情報や事例を挙げて、広範囲な紹介がなされた。中国での「青森」に関する商標権の争議無印良品をめぐる日中間の侵害事例の経緯など細かく解説され、非常に参考になった。

海外における販売戦略において、日本産農産品や食品などは高級商品として扱われるだけに、ブランド維持やコピー対策などでも、「守りとしてのブランド対策」と、積極的に販売を展開するための「攻めのブランド戦略」のふたつの視点があることを再認識した。

ルート開拓にどうしても関心が偏りがちだが、このブランド構築と保護対策は、これからますます重要になると感じた。

多くの関係者が懸念するアジア市場でのコピー商品の出現は、当事者だけでは解決できないので、ぜひとも国の支援が必要な分野である。地方で輸出を展開するには、国や専門家との連携を強化すべきである。

このような情報は、私もぜひ地方で発信していかなければならない。 (続く…)

海南島の投資誘致

060227map 海口から車で西岸に向かって約1時間余り、国家級の開発区である洋浦経済開発区を15年ぶりに訪ねた。

1988年に海南島が広東省より独立して海南省になり、島全体が経済特区に指定された時のシンボル的な経済開発区である。

この開発区は当初、日本の大手ゼネコン社の香港法人が政府の委託を受けて開発したこともあって注目を浴び、当時、幾度かここを訪ねたことを記憶している。

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もちろん開発当初はまだインフラ工事に精一杯で
土地や港湾の造成中だった。

その後、海南島ブームが起こり
地域振興のため、他の省では受けられない様々な優遇措置もあったため、内外の観光客やビジネスマンなど多くの人が海南島を目指し、
一時活況を呈した。

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(現在発展中の洋浦経済開発区)

しかし、インフラ整備で資金不足に陥り
見合った外資誘致が進まず、
さらに密輸や不動産乱開発のイメージも重なり、
しばらく停滞の時期が続いた。

ところが、2000年頃を境に
それまで開発事業の委託方式から
海南省政府による本格的なテコ入れが図られた。

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(視察した海南省最大の製紙工場)

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(最新鋭の製紙プラントは、ここでも無人化・省力化がすすんでいる)

また、旺盛なエネルギー需要に支えられ、
石油化学やケミカル(化成品)関連、
その他、製紙などの素材産業も好調らしく
活況を取り戻している。

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(急速に拡張中の石油天然ガス精製プラント)

今回の訪中は、転換期を迎えた中国の経済開発区と
投資誘致に関する調査である。

福岡市は早くからアジア企業、特に中国企業の
同市への投資誘致活動を活発に展開している。

現在、これは「二十一世紀中華街構想」という形に企画化されており
市長もトップセールスを行うなど全庁・全市的に
活発な誘致活動をすすめている。

実は、外資誘致では中国の方が多くの経験やノウハウがあるのではないかという仮説のもと、専門家チームを結成して、国内や中国各地を研究し、アクションに繋げようというものである。

現在、中国企業の対日投資は、日本側の熱い期待がある反面、
両国の制度上の問題やビジネス面での前提など様々な要因を抱え、
必ずしも実績が伴っていないのが現状である。

しかし、この海南・洋浦開発区の例にあるように
経済環境の変化を背景に、現場の積極的な働きかけや行政支援が加われば、必ず実現できるものだと確信している。

今まさに戦略的発想とスピーディーな行動が求められる時が来た。
福岡の投資誘致も、いよいよこれからが本番だ。

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(現在の洋浦港)

政府の取組み

6日の衆議院予算委員会の質疑でも
農産物の輸出が話題になった。

与党議員と農水相とのやりとりで
WTO交渉の推移と共に、
守りと合わせて攻めの姿勢、
すなわち輸出への取り組み強化が課題であるとの
政府の認識が改めて示された。

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答弁する中川農水相
(画像は時事通信社より)

特に、貿易相手国との検疫交渉の強化、
そしてブランドや品種保護のための知的財産権の確保などが
政府の具体的施策として挙げられた。

国が出来る事、やるべき事の筆頭が外交交渉ということだ。

今後、農業をめぐる通商交渉において
この守りと攻めの展開を見据えながら、
輸出に携わる我々は、単にビジネス視点だけではなく
内外の政治、外交の推移にも十分にウォッチしながら
主体的に行動していかなければならない。

世界の注目集まる香港で

WTO閣僚会議を13日に控えた前週、会議の舞台である香港に立ち寄った。

世界が注目する会合だけに、香港のホテルも日本からのフライトも予約が困難を極めるほどの満席状態だった。

香港の街はすでにクリスマスのデコレーションで、いまや有名になったビルの電飾も相変わらず美しい。

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(いまや名物となった香港の電飾)

年々センスが良くなっているのがわかる。セントラルの一角にもクリスマスの装飾が施され、若いカップルなどで賑わっていた。

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商業施設もすっかりクリスマスモードである。一部バーゲンも始まっており、ここ数年に比べ、明らかに景気が上向いていることが傍目にも伺える。

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(香港でもクリスマス商戦が)

私たち一行が搭乗した福岡発香港行きの便は、実は今年初めて福岡の戦略商品であるイチゴの「あまおう」の香港向け第一便が搭載された便でもあった。

このあまおうは、日本国内市場でも、最も高価で取引される「美人系」のイチゴで、一昨年は香港向けに1.4トンの輸出を実現し、昨年度は台湾向けも併せて23.5トンと、なんと一年で16.5倍に増えたのである。

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(今年香港向け第一便の福岡産「あまおう」)

今冬は、産地や試験場、現地バイヤーとの協力関係も強化され、科学的分析を通じて、輸出を意識した商品作り、包装の改善、マーケティングミックスなど新たな取り組みにも挑戦している。

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(鮮度保持のための新工夫が施されている) 

この中心的役割を担っているのが、福岡県農政部の「福岡・食の輸出促進センター」である。常に難題に取り組む情熱は並大抵のものでない。今年初めて、困難といわれる上海向けの梨の商業輸出も実現した。生産者と共に行動する姿勢は、ひとつのモデルと呼ぶにふさわしい。

福岡から香港向けの農産物は、空港に集荷された商品が朝一番で通関を済ませ、午前の便に乗せられ、香港到着後、空港からそのまま売り場に並べられるので、当日午後5時に、香港の消費者は手に取ることが出来るのである。これは、トラックで福岡から東京に運ぶより一日早いこととなり、生鮮農産物の輸出には非常に有利である。

この日も、空港到着後、早速高級デパートに並べられた。
ひとパック79.8香港ドル(約1300円)という値札がつけられたが、私の見ている前で、香港人らしきご夫人ふたパック、サッとかごに入れてくれた。

何度この光景に遭遇しても、やっぱり信じられない想いであると共に、心の中で「毎度ありがとうございます」と頭を下げていた。

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(お買い上げありがとうございます…)

3年前、自分をだますつもりで、「とよのか」イチゴを香港の店頭に並べて頂いた時のことを思い出した。
それがこんなに短期間で、これから迎えるクリスマス、旧正月、新年商戦における青果売場のメイン商品のひとつにまで成長するとは思いも寄らなかった。

事実は常に想像を超えている。
もちろんそれを実現するのは、一人ひとりの人間の信念と行動である。

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(庶民の果物屋(旺角地区)でも正品のあまおうが約1600円売られていた。驚いた)

独自色強める熊本の輸出アプローチ

熊本県の農産物輸出のアプローチは、
非常に特徴あるもので、とても興味深い。

くまもと農林水産物等輸出促進研究会(会長:吉川農園 吉川幸人社長)が昨年5月に設立されているが、
その構成員はすべて農業法人や企業であり、とてもユニークだ。

一般的に、農産物輸出に関する地方組織としては、
自治体が主導し、JA等農業団体、地場産品振興の外郭団体、商工団体などで構成されているのに対して、
本研究会では、今注目されている農業法人が主体となっている点だ。

(ちなみに熊本県には、別に農業団体等で構成される「熊本県農畜産物輸出促進協議会」が今年発足し、活動を展開している。)

同じ生産者でも
自らの手による販売・販路開拓というテーマに積極的に取り組んでいる組織だけに、輸出にも強い関心があり、新規事業に対するアレルギーも少ないようだ。

しかも、海外輸出というテーマに対して、
関心と「やる気」がある法人が、自ら参加している組織だから
初めから意識が高く、主体的な姿勢で取り組んでいるのである。

だから、発想も柔軟で、ユニークな活動が展開できる。

例えば、多くの県が、輸出対象地域を
上海、香港、台湾などのアジア近隣地域に集中しているが、
「研究会」では、独自性を貫き、
アメリカ西海岸を優先ターゲットにしている点などだ。

22日、ロサンジェルスから、
日系スーパーの社長とバイヤーを招き、
アメリカ向け農産関連商品のセミナーと商談会が開かれた。

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(会場となったグランメッセ熊本)

これまで、アジアでの販路開拓に携わってきた私にとって
アメリカ市場での食品事情は、とても新鮮で、大変参考になった。

セミナーではアメリカ最新事情について紹介があり、
日本のゴボウやナガイモが結構人気だということや
アメリカではBSEはあまり深刻に受け止められていないこと、
また輸入の際に、卵、乳製品、色素については注意が必要なことなど、興味深い話しが盛り沢山だった。

クチナシ色素を使っている日本のインスタントラーメンは輸入できないとか、
ヨモギ(蓬)や七味唐辛子のある成分は、麻薬に準ずるものとして輸入できないなど、
国が違えば事情も異なることがわかる。

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もちろん現地バイヤーから日本の農業法人に対するメッセージは、
人任せに売るのではなく、自ら現場に立って売り歩いてみること、
こだわり、高品質を謳う以上、直感的に差別性を訴えられる商品だけが現地の消費者に支持される
という指摘は、
アジア市場を攻める上でも共通の原則である。

セミナーの後、各メンバー法人から持ち寄られた商品を紹介する個別プレゼンが行われ、積極的な売込みを行った。

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自ら真剣に販路開拓に励む農業法人や食品企業の主体的な活動を
行政や団体がバックアップする熊本県のアプローチは非常に理に適った、
しかも地に足の着いた現実的・継続的な展開例だと思った。

今後の展開が楽しみだ。

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(個性ある農産加工食品が並ぶ)

画期的な鶏糞発電システム

宮崎空港から北へ車で約一時間、
川南町に今年5月に運転を開始した
鶏糞焼却による発電システムを視察させていただいた。

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              (川南町ホームページより)

事業主体は、みやざきバイオマスリサイクル株式会社で、
地元生産者、ブロイラー会社、そして九電グループの
西日本環境エネルギー株式会社(本社:福岡市)の出資による。

畜産大国である宮崎県は、養鶏業も鹿児島県に次ぎ
全国第2位の生産量を誇り、年間約1億羽に及ぶという。

そこから発生する鶏糞の量も半端でなく、
これまでは地中埋設による処理で、
周辺環境や河川汚濁の原因のひとつとなっていたそうだ。

それを西日本環境エネルギーの技術により、
これをそのまま燃やし、その蒸気でタービンを回して、
出力約1万キロワット・住宅3千数百件分の電力を生み出すという画期的なシステムだ。

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(プラント全景)

このシステムの素晴らしさは、
それまで環境に悪影響を及ぼしていた鶏糞を処理し灰にして
化成肥料の原料として再利用するのである。

集められた鶏糞を処理する委託費用、売電費用、灰の販売費用の三方面からの徴収から成り立つ仕組みで、とても注目に値する。長年の懸案であった鶏糞処理を一日400トンも処理し、電気エネルギーに転換し、そして残渣であるはずの焼却灰を、リンを豊富に含む肥料として、再度農業に再利用とする、まさにリサイクルシステムだ。

プラントも、核になるボイラーはイギリスの技術だそうだが、随所に西日本環境エネルギー社の応用技術が盛り込まれ、本家を凌ぐ実用的なシステムに出来上がっている。

さらに特筆すべきは、地元地権者、生産者、ブロイラー会社、県などの行政からも理解と大きな支援を受け、地域社会に大きな貢献をもたらすモデルプラントと認識されている事である。

単なるバイオマス発電プラントの建設に終わることなく、事業関係者が皆、その地の農林畜産業の促進など地域振興にもとても熱心なのである。宮崎県で発生する鶏糞の過半を処理しつつ、地元ブランドの農産物を国内外に販売することも視野に入れている社長のビジョンに私は心から敬服している。

地域のために何が出来るか、生産者のために何をすべきか一歩踏み込んで考え、行動すること。

日本の、地方の進路がここにある、と私は考えている。