中国四国地方の輸出促進連絡会に参加して

10日、中国四国農政局主催による
「地域農産物等輸出促進連絡会」が岡山市で開催され
私も参加させていただく機会を得た。

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中国といってもCHINAではなく、
中国地方の「ちゅうごく」である。

当地域は、
鳥取、島根の農産物輸出の横綱を擁し、
また岡山や広島、愛媛、徳島、高知などの
レベルの高い優良農産品を多く持つ
強県がそろう一大エリアだ。

中四国すべての県の輸出担当者、
各地のジェトロ所長、JA農業団体が揃い、
東京からは農水省輸出促進室ジェトロ本部からも担当官が参加され
官民のバランスが取れたメンバーが集まった。

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もう3回目になるというこの会合では、
国やジェトロの最新施策の紹介や各県の活動報告などがなされた。

私も時間をお借りして、
東アジア市場における農産物輸出の現状と課題について見解を述べさせていただいた。
各参加者とも、予定時間を超過するほど
非常に熱心に意見交換や情報収集を行ない、
その真剣さが感じられた。

20世紀梨の台湾向け輸出で実績を誇る鳥取県も、
昨年から難度の高い中国市場への参入に果敢にチャンレンジしている。

050810simane また、上海・台湾市場で積極的な販促活動を展開する島根県の担当者の報告は、大変勉強になった。

   

                            (上海で目につく島根産食品)

広島県・岡山県のチャレンジぶりも興味深い。
特に、ブドウ、モモなどアジア地域で人気の高い果物は
この両県が西日本を代表する産地だけに
今後の動向が注目される。

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(今が旬の岡山産ピオーネと清水白桃)

四国各県も、柑橘や野菜類、農産加工品のラインナップも豊富で、
やり方によっては、実績をあげることは十分に可能だと思う。

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(シンガポールで販売されている徳島産こまつ菜)

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(香港で売られている高知産かんしょ)

もっとも、鳥取県を除き、各県とも他の地域同様
輸出事業を始めたばかりで、
行政も農業関係者も本格的な輸出体制を構築するのはこれからのようだ。

生産・流通、物流の諸課題を克服し、
一日も早く成果を挙げてもらいたいと願っている。

マレーシアを調査

先月末、㈱伊勢丹農水省輸出促進室JETROの協力を得て、
東南アジア市場における日本農産物輸出の可能性について、
現地調査のために、
マレーシア(クアラルンプル)、タイ(バンコク)、シンガポールを周って来た。

マレーシアは、人口2560万人のうち、
マレー系が約65%、中国系が25%ということで、
言わずと知れたマレー半島のイスラム国家であるが、
ビジネスとしては中国系富裕層が主なターゲットとなるようだ。

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朝3時におきて、クアラルンプル最大の青果市場に足を運んだが、
いずこも同じ、ものすごい活気だった。
飛行機から見た風景が一面ヤシとゴムのプランテーションだったので、
さぞや農産物も自国産ばかりだろうと思ったが、
意外に、タイ産や豪州産も多く、野菜は中国産も目についた。
輸入品も決して少ないわけではなさそうだ。

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一方、シンガポールやタイへも輸出される「キャメロンハイランド」産の高原野菜は有名だ。
市場の労働者の中には、バングラディシュなどからの不法移民がいるそうだが、いずれも財布を握っているのは中国系がほとんどだ。

話しによると、マレーシアでは、商売は中国・インド系、法律関係はインド系が幅を利かせているそうだ。この国のブミプトラ政策(マレー人優遇政策)は有名だが、最近では段階的に変化している傾向にあるという。

今日(8日)の日本の経済新聞に、
伊勢丹のマレーシア3号店が設立されるとの報道があった。

LOT10店、KLCC店共に食品・青果物も充実した品揃えで驚いた。
青森のリンゴや大分の大葉なども販売されていた。
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この国の食品売り場で目を引くのは、やはり豚肉の扱いである。
イスラムの人たちが忌み嫌う豚肉であるが、
信仰の異なる消費者のために、
「NON HALAL」という特別のコーナーに、
豚肉、ハムソーセージなどを扱っているのである。
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また、同店の食品担当の方に伺ったのだが、

「日本式の惣菜も人気があって販売しているのですが、
どことなく味に深みが無く、色も照りが無いんですよ。
なぜだか分かりますか?」となぞをかけられた。

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答えは、みりんが使えないからなのだという。
そう、ここではアルコールを食品に添加できないのである。
惣菜のほかにも、カステラなどの菓子類にも
添加剤としてのアルコールが使えないので、
注意が必要なのだそうだ。
国が違えば、というところである。

伊勢丹のある界隈は、
クアラルンプルでも最も賑やかな一帯であるが、
新たに最高級ブランドショップを集めた超モダンなショッピングセンターもソフトオープンしている。
ここは、香港や台湾にも匹敵する豪華さだ。
観光客、富裕層を狙ったビジネスが展開中だそうである。

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03年は5%強、昨年は7%強の成長(GDP)を遂げており
商業の方も好調なのだろう。

ただ、食品においては、
香港、シンガポールとは消費レベルが異なり、
関税など諸コストをそのまま算入するなど価格を高く設定すると、
販売が厳しくなることもあり、
輸出により「ニッポンを売る」ためには、
コスト構造にかなりの工夫が必要だろう。
一人当たりGDP(国全体)が4000ドル弱と中国沿海都市のレベルだ。

ジャスコにも足を運んだが、
ちょうどバイヤーズデー(お得意様招待日)ということも050708kljuscoあり、
館内はごった返していた。
買っている量も半端ではなかった。

周囲の道路も大渋滞を引き起こしており、
警察が整理に出動するほど。
その物凄さが想像できよう。

この国でも、製造業と並び、
商業でも日本人チャレンジャーたちが奮闘している。

滞在時間が短く、
ゆっくり街中を観察できなかったが、
新たな発見ができそうな印象で、
機会があれば、ぜひ訪れてみたい街である。

近い将来、中東・イスラム圏にも「ニッポンを売る!」ことにでもなれば、
この地は、貴重な橋頭堡にもなりえるのである。

幻のイチジク

福岡県はイチジクの有名な産地でもある。

なかでも東部の行橋・豊前市とその近郊の
JA福岡みやこ・JA福岡豊築は、
県下でも有数のイチジク産地である。

この地区は、
「蓬莱」という品種では日本一の産出高を誇っている。

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海外のバイヤーを現地に案内した。
ちょうどハウス栽培最盛期で、
採りたてのイチジクを一口ほおばった瞬間、

 「うまいッ!」

誰もが声を上げて驚嘆した。

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早速バイヤーから、テスト輸入の注文が入って喜んだが、
実は、このイチジクという果物、
日持ちと輸送管理が
おそらく「果物一」難しい品種のひとつだということが分かって
二度驚いた。

イチジクは、ご存知のとおり、
漢字で「無花果」と書くように、
実の中に無数の白い雌花を咲かせるので
一見、花が咲いていないように見えるのだそうである。

だから、果物といっても
いわばデリケートな生花であり、
しかも、水分をたっぶり含んだ柔らかな果肉で出来ている。

この品種の出荷先も、
近郊の大都市、北九州から広島にかけての一帯に限られ、
福岡市場でさえお目見えしないという。

どおりで見た事がないはずだ。

これまで、3回にわたり、航空便で東京に輸送する試験を行ったそうだが、いずれも輸送上の荷傷みにより、失敗したのだそうだ。

  「東京にも運べないものをどうやって海外に!?」

産地の関係者も半信半疑である。

もとより、
江戸時代(寛永年間)に中国から渡来したと言われるイチジクだから、
もし、この状態で消費者に届けば、いい値で売れるはず…。
バイヤーは自信満々である。

地元にとっても、
日本一の「蓬莱」を海外の富裕層に受け入れられることで、国内での一層のブランド力向上の契機となれば、と、期待も膨らむ。

 「過去の失敗経験にとらわれて行動しないのは、後退と同じ」

生産者、JA、バイヤー、行政の考えが一致し、知恵を絞ることとなった。

県の農業試験場からも専門家を招き、
包装形態や収穫のタイミング、輸送方法などについて
徹底的に研究して挑戦することになった。

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おそらくしばらくの間、
完全成功する可能性は低いのではと予想されるが、
難度が高い問題に挑戦することで、
組織が活性化することは間違いない。

「海外へのチャレンジの経験は、
必ず東京市場への再挑戦にも活かせるに違いない!」

「イチジクが輸出できれば、アジアに近い福岡は、鮮度要求が厳しいものだって何でも提供できる!」

地元JA担当者・輸出スタッフの目が輝いていた。

挑戦は、まだ始まったばかりだ…。

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(視察中、TV放送局の取材を受ける)

都城で講演

宮崎県の都城市で講演させていただいた。

JA都城の合併30周年の記念大会ということで、
管内600名近くの生産者、流通関係者、来賓などが集まる大規模な
式典だった。

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日本有数の農業県である宮崎の層の厚さを肌で感じた。

講演では、
農産物の国内外の新しい流通や海外との輸出入の動向などについて紹介させていただいたが、ここでも2時間にわたり、皆さん熱心に耳を傾けていただき大きな手ごたえを感じた。

都城は、宮崎県にありながらも、かつては薩摩藩に属し、
もともと島津氏の先祖の出自の地だそうである。

どちらかというと、おっとりとした気風の宮崎にあって、
ここは

  「泣こかい、飛ぼかい、
   どうせ泣くなら、飛んだ方がまし」

という進取の気風があるという。

変革の時代にあって、頼もしい土地柄だ。
きっとチャレンジ精神が旺盛なのだろう。

講演後の懇親会で農産物輸出の話しをしても、
幹部生産者の「すぐやる、今やる」の反応で、
こちらが驚くほどだ。

都城管内は、畜産業がとても盛んで、
市町村単位では畜産品の生産高は日本一だそうである。

青果物では、
甘藷(かんしょ)、キュウリ、茶、ゴボウ、らっきょう、キンカンなどが並ぶ。

講演の翌朝、地元の甘藷生産農家を訪ねた。

ここでは、一般に「からいも」と呼ぶそうで、
宮崎紅という品種の超早生を選別していたが、
その鮮やかな紅色は、目を見張った。

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見栄えを良くする為にと、人手によって一本一本ひげを鋏でカットしてる。
大変な作業だ。
大きさ、グレードによって選別され、袋やパック詰めにされて
大阪、東京、福岡などに出荷されているという。

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実は、この甘藷、細長くて小さめのものが
「ミニ甘藷」として、昨年香港でブームとなり、
その人気ぶりを現地で目の当たりにして驚いた記憶がある。

とにかく主婦や若いOLが日本産の甘藷を買い求めていくのである。

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(香港の日系デパートにて 2004年12月)

その後、台湾やシンガポールでも
宮崎産、徳島産、高知産が売られているのを確認した。
この事実を日本の生産者は、ご存じないようだった。

現地の中国人は、どのようにして食べているのだろうか?

都城の生産者のおすすめは、ふかして食べるか、天ぷらにするのが
良いそうだ。

東京でもスイートポテトやチップが人気だ。
加工品への応用にもチャンスがありそうだ。

アジアマーケットでも日本産「唐芋」のブームが来るかもしれない。

アジアビジネス先進地「神戸」で

商談のために神戸に出張した。

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久しぶりの神戸だったので楽しみにしていたが、
商談に熱が入りすぎて、ゆっくり街を探索することが出来なかったのが残念。

神戸は大学時代の恩師の故郷であることと
福岡市と共通点が多いことから
私は前々から強い興味を持っている。
自分の故郷以外で、唯一住んでみたい憧れの街でもある。

同じ港町であり、商業・サービス業など第三次産業の集積も高い。
また最近、地震に見舞われたことでも共通している。

福岡市は、いま「21世紀の中華街構想」というビジョンを掲げているが、
神戸は、横浜と並びチャイナタウンの本家本元だ。

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(神戸・南京町)

今回商談に訪れた食品の輸出についても、
ここには輸出を行なう商社が多く集積しており、
「ニッポンを売る」商流の基礎は、東京・横浜に劣らない。

また、神戸市は、
アジアからの企業誘致、観光誘致にしても一日の長があり、
多くの面で見習うことが多い街である。

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(ポートライナーから神戸港をのぞむ)

そういえば、異人街周辺には、
台湾・香港からの団体旅行客で一杯で、
異国情緒ある風景に加え、
日本語よりアジアの言葉の方が多く耳に残り、
あっという間に海外旅行(出張?)している気分に浸ることが出来た。

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(異人館付近はアジアからの観光客で一杯)

群馬で盛り上がり

群馬県前橋市で講演をさせていただいた。

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      (会場の群馬ロイヤルホテル)

主催は、製造、物流、ITソフトなど
県下の元気企業で構成される「群馬国際ビジネス協同組合」で、
海外ビジネスに関する共同事業や情報交換を行なっている。

昨年度は、中国から研修生を受け入れ、
日本式のビジネススキルやマネジメントを研修させ、
関連企業に派遣することで目立った功績を挙げている。

今日の講演では、やはり時節柄、
4月に発生した中国の反日運動について関心が強く、
中国ビジネスにおけるカントリーリスクに対する質問や意見が多かった。

ただ、私のコメントとしては、
1.テレビ報道を通じて繰り返して流される
中国人デモ参加者による暴力的行為が、
必ずしも全中国の意思を反映していないという事実にも目を向けること

2.確かに、今後もかなり長期間、
反日感情に起因するビジネスリスクが常に存在することを忘れてはならないこと

3.日中ビジネスのチャンスは、
むしろ今のような逆風の時にこそヒントが落ちていることが経験的にあること
などを挙げた。

また、全国的なうねりになりつつある
「ニッポンブランド」のアジア市場向け輸出についても紹介したが、
参加者から強い関心を引き、大いに盛り上がった。

「群馬国際ビジネス協同組合」のようなビジネスアライアンスこそ、
これからの日本の輸出事業は、
機動的で実現可能な組織形態かもしれない。

今後の活動が大いに期待される。

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                      (JR高崎駅)

本組合の事務局を担当している
㈱群馬中央総合研究所というシンクタンクの研究員の方に話を伺ったが、
群馬県の景気は全般的に堅調に推移しているという。

若者の就職率も順調で、中央学園という専門学校グループの全就職率が90%を超え、日本一になったということで経済誌にも紹介されたという。

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                    (高崎にて)

高崎から夜9時ごろ、新潟発の新幹線で東京に帰る車内は、
金曜の夜ということで、新潟や群馬の赴任先での仕事を終え、
週末に東京の自宅に戻るビジネスマンで満席だった。

全国規模のうねりになる日本農産物の海外輸出

27日、「農林水産物等輸出促進全国協議会」
(会長:木村尚三郎東大名誉教授)が正式に発足し、
その設立総会が全国の関係者を集めて、
東京・大手町で開催された。

総会には、アジアアフリカ会議から帰国したばかりの
小泉総理も駆けつけ、来賓挨拶を行なった。

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総理は、他の改革同様、
「守りから攻めへ」の農業改革について
熱心に自説を唱えた。

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具体的な事例として、
青森のリンゴ、島根のコメ、
福岡のあまおうイチゴ、宮崎のシンビジウム

アジア各国で高値で売れているという例を紹介し、
極めて強い関心を寄せていることを参加者にアピールした。

続いて、
この協議会の名誉会長である島村農水大臣が挨拶に立ち
参集者に向けて激励の言葉を贈った。

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また、経団連の奥田会長も祝辞を行ない、
農業セクターも同連合会のメンバーになるよう
エールを送ったのが印象的だった。

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第2部のパネルディスカッションでは、
木村会長をコーディネーターに、
全国的に有名な青森のリンゴ生産者の片山社長
上海・蘇州で評判の日本食材店を
8店舗経営する石橋水産有限公司の石橋会長と
私の3人がパネリストとして登壇し、
農産物の輸出の可能性と心構えについて発言・提言した。

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(左は石橋氏、中は片山氏、右は木村会長)

生産者自らが主体的に動いて、
新たな活路を見出すことを実践する片山さん。

中国という、ビジネス上の障害が多く、
競争激しい市場で勝ち抜くための厳しさと可能性について訴える石橋さん。

両名とも、行動力と実績があるだけに説得力は抜群だ。

私は、地方の行政や団体など、輸出支援をする立場から、
地域の生産者や企業が、
いかにしてやる気と工夫を引き出すかの重要性について
発言する機会を与えてもらった。

この「全国協議会」は、関係省庁、47都道府県知事、
農業、林業、水産業、食品産業、酒類、流通、外食、観光
JETRO、日商、経団連等の広範な団体組織から構成
されており、
官民一体となった経済促進・地域振興を目指すものである。

050428houdou (駆けつけた多くの報道陣)

輸出促進、食文化発信という様々な基本戦略と共に
輸出額を5年で倍増という数値目標も設定している。

全国協議会の事業を通じて、
日本全国から、やる気のある生産者、企業が排出し、
地域が元気になることを期待すると同時に、
輸出当事者も、困難多い海外ビジネスに際して
この協議会の情報やネットワークを
ドンドン使い倒してもらうことを願っている。

事務局:農林水産省大臣官房国際部貿易関税課輸出促進室

九州が動き出す

熊本で、九州農政局主催の農林水産物・食品の輸出促進活動報告会が開かれた。
050325nouseikyoku1目的は、九州6県の輸出担当者が一堂に集まり、平成16年度の国の補助事業に対する活動報告会なのだが、
この事業を広く知ってもらおうと、地場産食品輸出に関わる企業や団体、生産者にも参加が呼びかけられ、会場一杯の参加者により、熱心に議論が行なわれた。
3年間の本格的輸出事業を行い、前年比10倍増のイチゴ輸出を達成した福岡県。
輸出に熱心な経済連と強力タッグを組んで中国への販路開拓に取り組む佐賀県。
観光誘致と水産物輸出からアジアへ切り込む長崎県。
物流と商流の構築を重視し、実践的なアプローチに挑む大分県。
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輸出に果敢に挑戦する単位農協や農業法人のバックアップに徹し、輸出者に求められる支援の場を提供する熊本県。
全国的に注目されるスギ木材の輸出と共に、高付加価値・安心安全農産物のアジア市場開拓を図る宮崎県。
独自のアプローチで、農・林・水・畜産物の輸出に取り組む鹿児島県。
各県とも、品目、輸出先、方法、事業主体も、それぞれ異なる開拓手法で、非常に興味深かった。
「異なる・個性ある」ということは、素晴らしい価値である、と私は考えている。
理由のひとつは、それぞれが持つ資源や知恵を使って、主体的に考え、行動しているからである。
もうひとつには、そのような個性あるアプローチができるだけの基盤が各県にあるということを証明しているのである。
手探りながらも、商品、人材、情報、ノウハウ蓄積、アジアとのネットワークを駆使して挑戦できるだけの層の厚さを九州各県は持っているのだ。
もちろん、今後どこもが輸出に成功するとは限らないが。
このことは、短期的には九州どうしの産地競争が海外市場でも展開される懸念があるのだが、各県がアジア向け輸出のファーストステップを果たした後、こんどは九州としての連携が生まれてくることは必然だと思うのである。
報告会では、私にも発言させていただく機会を与えられ、来るべき「九州の広域連携の可能性」についても言及した。
各地の個性や特長を生かした連携があるはずだ。「九州はひとつ」という言葉の意味は、意識の温度差やターゲットの異なる各地域を、同じ方法論で一律に進めることではなく、困難問題の克服や相互補完・協力、海外情報の交換、他産業との連携などを柔軟大胆に行なえる意識の共有化ではないか、と私は考えているのである。
多様な個性の集合体こそ、他にはない「九州ブランド」の価値なのではないだろうか。
会議の冒頭で、九州農政局長のスピーチで、

「これから九州は『食・体験・観光』というキーワードでつながりを深めていくという方向の中で、アジア向け農水産物輸出を捉えてみては」という提言がなされた。

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非常に注目される提言である。これはもう掛け声ではないのである。すでに行動計画も練られ、九州の各機関も横断的な協力支援体制を構築し始めているのである。
農水産業における生産・流通(物流・商流)・販売の有機連携、個性の異なる六つの県の地域連携、第一次産業と二次、三次、四次との産業連携が、アジアへの農産物の輸出をテーマにして、いよいよ動き出そうとしているのである。
行政も、生産者も、企業も、団体も、サポーターも、地域の関係者は、思考観念の転換と行動の準備はできているだろうか?
会議の中で、輸出に熱心なJA単協担当者が「農産物輸出は、何が起こるかわからない。ものすごい緊張感を伴う」という発言をしたのが、とても印象的であった。
かといって、このJAは、今年は、止めるどころかさらに輸出に取り組むそうである。
実は、この緊張感こそが、地域の生産販売力のレベルを大幅に向上させ、他から得られない強力なノウハウを国内販売に生かすことが出来るという価値を、すでに認識しているのである。
九州は、いよいよ動き出した。

佐賀の挑戦

佐賀県が、上海・青島から食品バイヤーを招聘し
県産農産物の輸出振興のための現地視察を行なった。
同県は、米(もち米)、麦(ビール麦)、大豆などをはじめ
たまねぎ、アスパラ等の野菜は日本ランキングレベル。
かんきつ、梨、イチゴなどの果実も有名で、
ほかにも佐賀牛、嬉野茶など
いわゆる「実力派」商品を有する九州屈指の農業県である。
視察では、神埼地区のイチゴ・アスパラガスの産地を訪ねた。
佐賀では、いま「さがほのか」「さちのか」を主力に
イチゴ栽培にも力を入れている。
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ちょうど最盛期を向かえ、
最新鋭のセンサーによる選別・パッケージラインのフル稼働の様子は壮観だ。
大粒で真っ赤なイチゴが一粒ずつベルトコンベアーで選別されていく様子は中国からのバイヤーも驚いていた。
国内はもとより海外に向けても、
イチゴを中国本土へ輸出することを
最大の目標としていることからもその熱意が伝わる。
佐賀県は昨秋から、
青島と大連に向けてナシの輸出も始めている。
山東・遼寧省といえば、中国でも指折りのナシの産地。
そのお膝元ともいえる青島で、
大玉2個で約2700円相当の贈答用ナシ等を含め
日本からコンテナで持ち込んだ8割を売り切ったというのだからスゴイ。
その青島の大手日系スーパーの総経理は、
当初、「まさかここまで売れるとは思わなかった…」と
小声でチラリ。
現地のプロも驚くジャパンブランドの威力は
想像以上かもしれない。
輸出の試験地となったJA伊万里を訪ねた。
不安も多い輸出事業だが、担当者のチャレンジ精神は旺盛だ。
伊万里港も大連港との航路が開設し、
物流からの支援も整いつつある。
今回、果実を味わうことが出来なかったが
ハウスの中では、ナシの花がとても美しかった。
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会場を佐賀市に移し、
東京から農水省の輸出担当室長も招いて、セミナーを開催した。
室長のほかに、上海・青島のバイヤーからそれぞれ
現地最新情報も報告され、たいへん熱の入ったものとなった。
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夜は、地元大手ホテルの料理長が提案する
佐賀県農産物を使った料理のプレゼンテーションが行なわれた。
とても斬新な企画で、
地元で採れたての野菜や肉、海苔などを素材にした
前菜やメイン、スープが、また果物を使ったデザートなど数十種類に及ぶレシピが提案された。
どれも秀逸・ユニークなものばかりで、とても面白いのだが、
これは佐賀県のノウハウなので、残念ながら詳細をご紹介できない。
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産地を訪れ、商品の持つ素晴らしさを知ることも当然大切だが、
「どのようにして食べるのか」という提案
販路開拓にはとても重要だ。
特に、海外で野菜を売る場合には必要だろう。
あっという間の3日間であったが、
中国からのバイヤーもたいへん満足し、
また多くの情報を持ち帰られることになった。
佐賀県は、知事をはじめ、県や市、
また農業団体が、輸出事業に対して極めて熱心な地域だと感じた。
それぞれの輸出担当者の理念は明確で、
何よりもスピード感ある行動で、実行力が高い
県連責任者の方が、

「輸出は、すぐに実績をあげるのは難しいが、
次の世代のために、今行動しておくことが
生産者のために何よりも必要だ。」

と語られたのには共感した。
言うのは簡単だが、組織の中で実行できる人は極めて少ない。
佐賀県の輸出事業に対する挑戦は、必ず実を結ぶことだろう。