幻のイチジク

福岡県はイチジクの有名な産地でもある。

なかでも東部の行橋・豊前市とその近郊の
JA福岡みやこ・JA福岡豊築は、
県下でも有数のイチジク産地である。

この地区は、
「蓬莱」という品種では日本一の産出高を誇っている。

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海外のバイヤーを現地に案内した。
ちょうどハウス栽培最盛期で、
採りたてのイチジクを一口ほおばった瞬間、

 「うまいッ!」

誰もが声を上げて驚嘆した。

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早速バイヤーから、テスト輸入の注文が入って喜んだが、
実は、このイチジクという果物、
日持ちと輸送管理が
おそらく「果物一」難しい品種のひとつだということが分かって
二度驚いた。

イチジクは、ご存知のとおり、
漢字で「無花果」と書くように、
実の中に無数の白い雌花を咲かせるので
一見、花が咲いていないように見えるのだそうである。

だから、果物といっても
いわばデリケートな生花であり、
しかも、水分をたっぶり含んだ柔らかな果肉で出来ている。

この品種の出荷先も、
近郊の大都市、北九州から広島にかけての一帯に限られ、
福岡市場でさえお目見えしないという。

どおりで見た事がないはずだ。

これまで、3回にわたり、航空便で東京に輸送する試験を行ったそうだが、いずれも輸送上の荷傷みにより、失敗したのだそうだ。

  「東京にも運べないものをどうやって海外に!?」

産地の関係者も半信半疑である。

もとより、
江戸時代(寛永年間)に中国から渡来したと言われるイチジクだから、
もし、この状態で消費者に届けば、いい値で売れるはず…。
バイヤーは自信満々である。

地元にとっても、
日本一の「蓬莱」を海外の富裕層に受け入れられることで、国内での一層のブランド力向上の契機となれば、と、期待も膨らむ。

 「過去の失敗経験にとらわれて行動しないのは、後退と同じ」

生産者、JA、バイヤー、行政の考えが一致し、知恵を絞ることとなった。

県の農業試験場からも専門家を招き、
包装形態や収穫のタイミング、輸送方法などについて
徹底的に研究して挑戦することになった。

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おそらくしばらくの間、
完全成功する可能性は低いのではと予想されるが、
難度が高い問題に挑戦することで、
組織が活性化することは間違いない。

「海外へのチャレンジの経験は、
必ず東京市場への再挑戦にも活かせるに違いない!」

「イチジクが輸出できれば、アジアに近い福岡は、鮮度要求が厳しいものだって何でも提供できる!」

地元JA担当者・輸出スタッフの目が輝いていた。

挑戦は、まだ始まったばかりだ…。

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(視察中、TV放送局の取材を受ける)

都城で講演

宮崎県の都城市で講演させていただいた。

JA都城の合併30周年の記念大会ということで、
管内600名近くの生産者、流通関係者、来賓などが集まる大規模な
式典だった。

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日本有数の農業県である宮崎の層の厚さを肌で感じた。

講演では、
農産物の国内外の新しい流通や海外との輸出入の動向などについて紹介させていただいたが、ここでも2時間にわたり、皆さん熱心に耳を傾けていただき大きな手ごたえを感じた。

都城は、宮崎県にありながらも、かつては薩摩藩に属し、
もともと島津氏の先祖の出自の地だそうである。

どちらかというと、おっとりとした気風の宮崎にあって、
ここは

  「泣こかい、飛ぼかい、
   どうせ泣くなら、飛んだ方がまし」

という進取の気風があるという。

変革の時代にあって、頼もしい土地柄だ。
きっとチャレンジ精神が旺盛なのだろう。

講演後の懇親会で農産物輸出の話しをしても、
幹部生産者の「すぐやる、今やる」の反応で、
こちらが驚くほどだ。

都城管内は、畜産業がとても盛んで、
市町村単位では畜産品の生産高は日本一だそうである。

青果物では、
甘藷(かんしょ)、キュウリ、茶、ゴボウ、らっきょう、キンカンなどが並ぶ。

講演の翌朝、地元の甘藷生産農家を訪ねた。

ここでは、一般に「からいも」と呼ぶそうで、
宮崎紅という品種の超早生を選別していたが、
その鮮やかな紅色は、目を見張った。

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見栄えを良くする為にと、人手によって一本一本ひげを鋏でカットしてる。
大変な作業だ。
大きさ、グレードによって選別され、袋やパック詰めにされて
大阪、東京、福岡などに出荷されているという。

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実は、この甘藷、細長くて小さめのものが
「ミニ甘藷」として、昨年香港でブームとなり、
その人気ぶりを現地で目の当たりにして驚いた記憶がある。

とにかく主婦や若いOLが日本産の甘藷を買い求めていくのである。

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(香港の日系デパートにて 2004年12月)

その後、台湾やシンガポールでも
宮崎産、徳島産、高知産が売られているのを確認した。
この事実を日本の生産者は、ご存じないようだった。

現地の中国人は、どのようにして食べているのだろうか?

都城の生産者のおすすめは、ふかして食べるか、天ぷらにするのが
良いそうだ。

東京でもスイートポテトやチップが人気だ。
加工品への応用にもチャンスがありそうだ。

アジアマーケットでも日本産「唐芋」のブームが来るかもしれない。

アジアビジネス先進地「神戸」で

商談のために神戸に出張した。

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久しぶりの神戸だったので楽しみにしていたが、
商談に熱が入りすぎて、ゆっくり街を探索することが出来なかったのが残念。

神戸は大学時代の恩師の故郷であることと
福岡市と共通点が多いことから
私は前々から強い興味を持っている。
自分の故郷以外で、唯一住んでみたい憧れの街でもある。

同じ港町であり、商業・サービス業など第三次産業の集積も高い。
また最近、地震に見舞われたことでも共通している。

福岡市は、いま「21世紀の中華街構想」というビジョンを掲げているが、
神戸は、横浜と並びチャイナタウンの本家本元だ。

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(神戸・南京町)

今回商談に訪れた食品の輸出についても、
ここには輸出を行なう商社が多く集積しており、
「ニッポンを売る」商流の基礎は、東京・横浜に劣らない。

また、神戸市は、
アジアからの企業誘致、観光誘致にしても一日の長があり、
多くの面で見習うことが多い街である。

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(ポートライナーから神戸港をのぞむ)

そういえば、異人街周辺には、
台湾・香港からの団体旅行客で一杯で、
異国情緒ある風景に加え、
日本語よりアジアの言葉の方が多く耳に残り、
あっという間に海外旅行(出張?)している気分に浸ることが出来た。

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(異人館付近はアジアからの観光客で一杯)

麦秋の甘木で

甘木市役所で講演をさせていただいた。

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甘木は、福岡県のほぼ中央に位置し、
面積では県下で3番目に広い。
人口は約4.2万人で、
畜産、農業、林業は市の基幹産業である。

来年3月には、近隣の朝倉町・杷木町と合併
朝倉市としてスタートをする予定だ。

ここでも、中国・アジアにおける
反日活動の動向、経済関係緊密化、ビジネスチャンス等に対して
とても強い関心が寄せられた。

この地域の農産品の海外輸出候補として挙げられるのは、
青ネギ、ナシ、甘柿、ブドウなど
国内でも商品化に成功した優良品目が多い。
とりわけ「博多万能ネギ」で知られる青ネギの産地としても有名だ。

この「博多万能ネギ」が香港では定番商品になっていて
毎週数便、エアカーゴで定期的に送られていることを
現場の生産者や行政担当者も知っておらず、
大いに興味を持っていただいた。

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(香港の高級スーパーで売られている「博多万能ネギ」)

認定農業者の方から
「コメの輸出は出来ないか?」という前向きな質問も出され、
関東や福岡などの大消費地向けの商品生産に
日夜励んでいるこの地域の生産者の
発想の柔軟性に改めて驚いている。

会場の参加者とやり取りをしていたら
予定の2時間があっという間に過ぎてしまった。

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(まさに麦秋の朝倉路)

群馬で盛り上がり

群馬県前橋市で講演をさせていただいた。

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      (会場の群馬ロイヤルホテル)

主催は、製造、物流、ITソフトなど
県下の元気企業で構成される「群馬国際ビジネス協同組合」で、
海外ビジネスに関する共同事業や情報交換を行なっている。

昨年度は、中国から研修生を受け入れ、
日本式のビジネススキルやマネジメントを研修させ、
関連企業に派遣することで目立った功績を挙げている。

今日の講演では、やはり時節柄、
4月に発生した中国の反日運動について関心が強く、
中国ビジネスにおけるカントリーリスクに対する質問や意見が多かった。

ただ、私のコメントとしては、
1.テレビ報道を通じて繰り返して流される
中国人デモ参加者による暴力的行為が、
必ずしも全中国の意思を反映していないという事実にも目を向けること

2.確かに、今後もかなり長期間、
反日感情に起因するビジネスリスクが常に存在することを忘れてはならないこと

3.日中ビジネスのチャンスは、
むしろ今のような逆風の時にこそヒントが落ちていることが経験的にあること
などを挙げた。

また、全国的なうねりになりつつある
「ニッポンブランド」のアジア市場向け輸出についても紹介したが、
参加者から強い関心を引き、大いに盛り上がった。

「群馬国際ビジネス協同組合」のようなビジネスアライアンスこそ、
これからの日本の輸出事業は、
機動的で実現可能な組織形態かもしれない。

今後の活動が大いに期待される。

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                      (JR高崎駅)

本組合の事務局を担当している
㈱群馬中央総合研究所というシンクタンクの研究員の方に話を伺ったが、
群馬県の景気は全般的に堅調に推移しているという。

若者の就職率も順調で、中央学園という専門学校グループの全就職率が90%を超え、日本一になったということで経済誌にも紹介されたという。

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                    (高崎にて)

高崎から夜9時ごろ、新潟発の新幹線で東京に帰る車内は、
金曜の夜ということで、新潟や群馬の赴任先での仕事を終え、
週末に東京の自宅に戻るビジネスマンで満席だった。

全国規模のうねりになる日本農産物の海外輸出

27日、「農林水産物等輸出促進全国協議会」
(会長:木村尚三郎東大名誉教授)が正式に発足し、
その設立総会が全国の関係者を集めて、
東京・大手町で開催された。

総会には、アジアアフリカ会議から帰国したばかりの
小泉総理も駆けつけ、来賓挨拶を行なった。

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総理は、他の改革同様、
「守りから攻めへ」の農業改革について
熱心に自説を唱えた。

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具体的な事例として、
青森のリンゴ、島根のコメ、
福岡のあまおうイチゴ、宮崎のシンビジウム

アジア各国で高値で売れているという例を紹介し、
極めて強い関心を寄せていることを参加者にアピールした。

続いて、
この協議会の名誉会長である島村農水大臣が挨拶に立ち
参集者に向けて激励の言葉を贈った。

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また、経団連の奥田会長も祝辞を行ない、
農業セクターも同連合会のメンバーになるよう
エールを送ったのが印象的だった。

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第2部のパネルディスカッションでは、
木村会長をコーディネーターに、
全国的に有名な青森のリンゴ生産者の片山社長
上海・蘇州で評判の日本食材店を
8店舗経営する石橋水産有限公司の石橋会長と
私の3人がパネリストとして登壇し、
農産物の輸出の可能性と心構えについて発言・提言した。

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(左は石橋氏、中は片山氏、右は木村会長)

生産者自らが主体的に動いて、
新たな活路を見出すことを実践する片山さん。

中国という、ビジネス上の障害が多く、
競争激しい市場で勝ち抜くための厳しさと可能性について訴える石橋さん。

両名とも、行動力と実績があるだけに説得力は抜群だ。

私は、地方の行政や団体など、輸出支援をする立場から、
地域の生産者や企業が、
いかにしてやる気と工夫を引き出すかの重要性について
発言する機会を与えてもらった。

この「全国協議会」は、関係省庁、47都道府県知事、
農業、林業、水産業、食品産業、酒類、流通、外食、観光
JETRO、日商、経団連等の広範な団体組織から構成
されており、
官民一体となった経済促進・地域振興を目指すものである。

050428houdou (駆けつけた多くの報道陣)

輸出促進、食文化発信という様々な基本戦略と共に
輸出額を5年で倍増という数値目標も設定している。

全国協議会の事業を通じて、
日本全国から、やる気のある生産者、企業が排出し、
地域が元気になることを期待すると同時に、
輸出当事者も、困難多い海外ビジネスに際して
この協議会の情報やネットワークを
ドンドン使い倒してもらうことを願っている。

事務局:農林水産省大臣官房国際部貿易関税課輸出促進室

福岡地震と反日デモと「ニッポンを売る!」

16日に発生した上海での反日デモ活動が契機となり、
いま日中両国間で様々な駆け引きが展開されている。

我々日本人にとっては
中国政府が次にどんな対応をしてくるのか大いに注目している。

事態はまだ流動的で、
国際情勢、および中国の国内世論や政権内部の動向次第で
どう変わるのか、なかなか予測がつかず、未だ予断を許さない。

ところで、今朝6時11分、
福岡地方で震度5強の大きな地震が発生した。

私も福岡に滞在していたので、
この激しい揺れには驚いた。

3月20日の震度6の本震以来、
数日間めだった余震がなく、少しだけ忘れかけていた後の
突然の激しい揺れだっただけに、
実際の被害より、精神的なショックの方が大きかった。

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ここで、ふと考えてみると、
「これは、中国の反日活動をはじめとする
アジアで起きる様々な事件災害と同じではないか」
と。

私が30年ほど前から中国と関わりを持ってからも
政治問題に端を発する反日抗議や権力闘争による混乱、
予測もつかない事件や災害の発生などによる
突然の交流中断を何度体験させられたか。

数年間にわたり情勢が安定していたことなんて記憶にない。

最近でも、
大津波、SARS、鳥インフルエンザ、アジア通貨危機、天安門・・・

忘れかけた頃に決まって突然現れる不測の事態

戦後だけでも、日本は大国・中国に大いなる期待や幻想を抱きながら、
「これからはアジアの新時代だ」と盛り上がるのだが、
必ず乱気流に巻き込まれ、右往左往してしまう。

日頃、私は

多くのビジネスマンの方々は
2008北京オリンピック、2010上海万博までは
少なくとも右肩上がりのはずと期待されているようですが、
それ以前にも紆余曲折は何度かありますよ、

と訴えていたが、やっぱりそうなってしまった。

でも、その後、下の句が続く。

絶望的に見える状況になっても、いつの間にか回復し、
忘れたかのように、
また中国ブームが始まるのが不思議なんです

と。

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             (反日デモ数日前の上海)

要は、
常に不測の事態、予想もつかない出来事が起こりえるのが
当たり前の環境で、
それでも我々は「ニッポンを売る!」ことに挑戦するのである。

それは、今日発生した福岡西方沖の余震と同である。

専門家は、後追いの解説や分析は出来ても、
決して正確な予知は出来ないのである。

この耐性がない人・組織は、
中国などとのビジネスはやめておいたほうが無難である。

反日の上海を行く

今日午前、北京・広州に続いて、
上海でも反日デモが発生し、
一部投石騒ぎや破壊行為が行なわれたことが、
日本では終日報道された。

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(時事通信社)

WTO加盟以来、
SARSを除けば、経済関連のニュースが多かった中国だが
思い出したかのように、
反日感情の悪化とその行動が
日本中に衝撃を与えている。

いま中国・韓国で起きている一連の出来事は、
多くの日本人に激しいショック、
あるいはこれらの国々に対する嫌悪感を与えたことは間違いない。

デモ活動の背景については、
いろいろ観測されているが、
いずれにしても、
中国当局側により、世界中にこの感情を知らしめることが
ある種の目的であったことだけは間違いない。

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(朝の上海の街角で)

「ニッポンを売る!」という視点から見れば、
この反日、日本商品ボイコット(排斥)、歴史認識問題などは、
マーケットとしてのアジア、消費者としてのアジア人をとらえる上で
どうしても避けられないテーマである。
中国、韓国だけでなく、台湾、香港、東南アジアにおいても。

対日感情については、
今後長期間は、いかなる条件・方法をもってしても
根本的な解決はありえないと考える方が自然であり、
それを前提としたアプローチを目指すべき
だろう。

ただ、ハッキリとしておかなければならないことは、
この種の事態は、
これからも起きる可能性があり続けると同時に、
もう日本商品が売れなくなるとか、
日本人が現地でビジネス出来なくなるという事は
まったくない
と言うことである。

中国と30年近くも付き合っていると、
この辺の感覚がなんとなく分かってくる。

昨年来、講演の機会があるたびに訴えているのだが、
中国特需だからといって、北京オリンピック、上海万博までは
ビジネス天国だとばかりに舞い上がり、
反日デモや人権問題、汚職や格差といっては
嫌悪感や差別意識が支配する。
どちらに振れても、日本人は中国に対して熱くなりすぎて極端なのである。

おそらく日本のような安定した平均社会を前提として
中国に過大な期待を寄せているからなのではないだろうか?

とにかくビジネスマンたるもの、
冷静にチャンスを窺(うかが)おうではないか。

今週11日から13日まで
渦中の上海に、マーケティング調査のために出張した。

精力的に数多くの日本人駐在員の方々と情報交換したが、
まったく普段と変わらない様子であった。

日本の騒ぎぶりが信じられないといった風である。

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(いつもと変わりない上海の街)

さすがに、この週末は、それなりに注意を払っていると思うが
日本で我々が想像しているような状態ではない。

出張時の上海の様子については
私のレポートが、Yahooニュース中国情報局
転載されているので、参照されたい。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050415-00000003-scn-int

http://forum.searchina.ne.jp/2005/0415/column_0415_001.shtml

愛国の熱情も大切だけれど、
熱くなり過ぎると客観情勢を見誤ることも
過去の歴史が教えてくれている。

九州が動き出す

熊本で、九州農政局主催の農林水産物・食品の輸出促進活動報告会が開かれた。
050325nouseikyoku1目的は、九州6県の輸出担当者が一堂に集まり、平成16年度の国の補助事業に対する活動報告会なのだが、
この事業を広く知ってもらおうと、地場産食品輸出に関わる企業や団体、生産者にも参加が呼びかけられ、会場一杯の参加者により、熱心に議論が行なわれた。
3年間の本格的輸出事業を行い、前年比10倍増のイチゴ輸出を達成した福岡県。
輸出に熱心な経済連と強力タッグを組んで中国への販路開拓に取り組む佐賀県。
観光誘致と水産物輸出からアジアへ切り込む長崎県。
物流と商流の構築を重視し、実践的なアプローチに挑む大分県。
050325nouseikyoku2
輸出に果敢に挑戦する単位農協や農業法人のバックアップに徹し、輸出者に求められる支援の場を提供する熊本県。
全国的に注目されるスギ木材の輸出と共に、高付加価値・安心安全農産物のアジア市場開拓を図る宮崎県。
独自のアプローチで、農・林・水・畜産物の輸出に取り組む鹿児島県。
各県とも、品目、輸出先、方法、事業主体も、それぞれ異なる開拓手法で、非常に興味深かった。
「異なる・個性ある」ということは、素晴らしい価値である、と私は考えている。
理由のひとつは、それぞれが持つ資源や知恵を使って、主体的に考え、行動しているからである。
もうひとつには、そのような個性あるアプローチができるだけの基盤が各県にあるということを証明しているのである。
手探りながらも、商品、人材、情報、ノウハウ蓄積、アジアとのネットワークを駆使して挑戦できるだけの層の厚さを九州各県は持っているのだ。
もちろん、今後どこもが輸出に成功するとは限らないが。
このことは、短期的には九州どうしの産地競争が海外市場でも展開される懸念があるのだが、各県がアジア向け輸出のファーストステップを果たした後、こんどは九州としての連携が生まれてくることは必然だと思うのである。
報告会では、私にも発言させていただく機会を与えられ、来るべき「九州の広域連携の可能性」についても言及した。
各地の個性や特長を生かした連携があるはずだ。「九州はひとつ」という言葉の意味は、意識の温度差やターゲットの異なる各地域を、同じ方法論で一律に進めることではなく、困難問題の克服や相互補完・協力、海外情報の交換、他産業との連携などを柔軟大胆に行なえる意識の共有化ではないか、と私は考えているのである。
多様な個性の集合体こそ、他にはない「九州ブランド」の価値なのではないだろうか。
会議の冒頭で、九州農政局長のスピーチで、

「これから九州は『食・体験・観光』というキーワードでつながりを深めていくという方向の中で、アジア向け農水産物輸出を捉えてみては」という提言がなされた。

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非常に注目される提言である。これはもう掛け声ではないのである。すでに行動計画も練られ、九州の各機関も横断的な協力支援体制を構築し始めているのである。
農水産業における生産・流通(物流・商流)・販売の有機連携、個性の異なる六つの県の地域連携、第一次産業と二次、三次、四次との産業連携が、アジアへの農産物の輸出をテーマにして、いよいよ動き出そうとしているのである。
行政も、生産者も、企業も、団体も、サポーターも、地域の関係者は、思考観念の転換と行動の準備はできているだろうか?
会議の中で、輸出に熱心なJA単協担当者が「農産物輸出は、何が起こるかわからない。ものすごい緊張感を伴う」という発言をしたのが、とても印象的であった。
かといって、このJAは、今年は、止めるどころかさらに輸出に取り組むそうである。
実は、この緊張感こそが、地域の生産販売力のレベルを大幅に向上させ、他から得られない強力なノウハウを国内販売に生かすことが出来るという価値を、すでに認識しているのである。
九州は、いよいよ動き出した。