北京は夏に限る

都・北京の街
春の日はとても短く、梅雨も無いから
あっという間に夏がやってくる。

5月でもすぐに30℃を越える日が始まるので、大変な暑さになってしまう。
でも、湿度が低いので、木陰に入るとあれだけかいた汗がすっと引いていき、気化熱のせいだろうか、とても涼しく感じるから不思議だ。

060714hikage_1
気温は35℃を越えていても、木陰に入るととても涼しい

日本よりずっと気温は高いのに、うだる様な蒸し暑さがない。

日差しを避けて水分さえ十分に取れば、外出はさほど苦にならないのだ。

060714bousi
「ちょっとお~ッ!暑いんだからさあ、
帽子ぐらい買っていきなよッ」

私は1984年に約1年間、北京に滞在したことがある。
当時は自動車も少なく、パソコンやFAXなど無かった時代である。

夏は35℃、冬は零下15℃位の外気温でも、自転車に乗って北京電報局へ日本の本部向けに写真電報を打ちに行くのに、天安門の前を一年間毎日横切っていたのも、今ではいい思い出だ。

060714tenanmon
天安門  昔はこの前を一年間、自転車で通った…

もっとも当時の私は、広東省広州や香港に滞在することが多かったので、南方中国の風景や生活風俗に強く魅かれていたのだが、こと、北京の夏の素晴らしさだけは別格だと思う。

北京は代々王朝の首都として歴史の舞台となったので名所旧跡も多いのだが、駐在時代は万里の長城や天安門に行くより、
北京の人々の生活をじかに感じることの出来る「胡同」(フートン)と呼ばれる庶民住宅区の横丁を徘徊することを私は何よりの楽しみにしていた。

060714futongkanban
横丁を意味する胡同

昔からある庶民の家はとても狭く、庭もほとんど無く、ひしめき合うように建て込んでいるので、共用スペースしての胡同は、名実共に住民のコミュニケーションの場である。

060714futong
私のイメージどおりのフートン

暑さを凌ぐために、老人たちは昼夜を問わず胡同に出ておしゃべりをする。学校帰りの子供たちも格好の遊び場だし、若い女性たちもひっきりなしに行き来する。

060714futong2
060714futong3

豆腐やスイカ、ビール売りなどが鐘や拡声器でやって来ると、あちこちから付近の住民が草履がけで買いにくる。

060714futong5
ビール売りがやってきた   掛け声が粋だねェ

060714futong6
大ネギも北京の家庭料理には欠かせない

僕らが育った昭和30年代と少しも変わらない。
きっと郷愁を感じるのだろう。

いや、この風景はもしかしたら、服装は違えども解放前の清朝末期とも変わらないのではないか、などと勝手に想いを巡らすのも楽しい。

060714futong1
今の生活です

ところが最近、オリンピックを2年後に控えて、再開発のためにこの胡同が次々となくなっているという悲しい事態が起きているらしい。

文化財としても、また博多の屋台など同様、観光資源としても重要なことを市政府は認知しているらしく、一部保護地区を設けて胡同を残しているという。

060714futong7

これからも胡同が守られることは良いことだが、観光地化してしまうとしたら、本来の素晴らしさが半減してしまわないかと他人事ながら心配してしまう。

060714raoren
こんな風情があるから価値がある

老北京人(生粋の北京っ子)の暖かで大らかな人情や互助の精神あふれた胡同のコミュニティーの様子を、今のうちに心のフィルムに納めておきたいと考えているのだが、出張では訪ねる時間も限られ、とても残念だ。

060714futong4
こんな住宅街の表情もいずれなくなってしまうのか?

この時ばかりは、仕事で使う標準中国語ではなく、
聴いても解らない北京なまりのあの独特の調べの方が耳に心地よい。

060714ronaujinyo
今どきの看板  ロナウジーニョとは漢字でこう書くらしい

私にとっては、胡同徘徊のために、わざわざ北京を訪れる価値がある。

しかもそのベストシーズンは、
清少納言ではないが、必ず夏に限る

060714vegi
北京市民の夏野菜がこんなに豊富に素晴らしくなっている

The following two tabs change content below.

田中 豊

地域の元気づくりと海外ビジネスを通じて、日本を元気にしたい行動派プロデューサーです。 海外ビジネスの参謀役として長年活動してきました。 とりわけ農林水産業を振興にすることで地域が元気になることを現場の生産者、支援者の皆さんと共に日々実践していることをとても誇りに感じています。 「地域を活かし、そしてつなぐこと」をスローガンに訴え、いつの時でもチャンス(chance)ととらえ、絶えずチャレンジ(challenge)し、チェンジ(change)を果たしていくことの「三つのC」をモットーにしています。

“北京は夏に限る” への5件の返信

  1. 北京をよく知っている人でしか味わえないような風情ですねえ。なつかしくて心温まる、まるで「ALWAYS 三丁目の夕日」に出てくる昭和30年代の日本のようですね。
    行って見たくなりますね。

  2. luckymentaiさんコメントありがとうございます。
    ニフティーが長時間のメンテナンスだったので、久しぶりのアップです。北京の胡同は世界遺産になるかも知れないほど、中国マニア(!?)には興味ワクワクのワンダーランドです。
    仕事でない時にぜひ行ってみたいところです。

  3. 私も88年から北京に時々行ってます。とても懐かしい風景ですね。
    映画【胡同のひまわり】を見ました。胡同の様子やそこで生活する人々の暖かい人間ドラマがすばらしく映し出されていました。76年ごろから現代までの北京の町や人々の移り変わりを
    感じ取ることができました。
    オリンピックを前に胡同が近代化のため姿を消してしまうのが
    とても残念です。

  4. 小梅さんコメントありがとうございました。
    胡同のひまわりという映画は知りませんでした。どこかでまだ観る事はできるのでしょうか?
    昔住んでた外国人のノスタルジックといえばそれまでですが、建物だけを一部残すのではなく、北京人の生活風習を見続けたいですね。東京の下町のように。

コメントは受け付けていません。