TPP参加についての論議が喧(かまびす)しい。
国論を二分するほどのテーマということもあって
結局、総理は「参加に向けた議論を行う」という、何とも玉虫色の表現を携えて、APECが開かれるハワイに向かった。
こんな時、外国語通訳はどう翻訳するんだろうか?
言った言わないがとんでもない結果を引き起こす対外交渉にあって、きちんと訳さねば大問題になる。
玉虫色どおりに訳さないといけないから難儀だろうなあ、
なんて、裏方通訳者のご苦労に思いを馳せる。
僕もこれまで何度も似たような経験をしているからだ。
いずれにしても、この国を代表する首相といえども、
最終的に、一存では結論が出せないのである。
これは政府に限ったことではない。
企業だって、組織は皆基本的にそうである。
社長や代表だって、大方のコンセンサスを得られなければ
独断ではなかなか決められないのである。
いわゆるトップダウンとボトムアップの違いである。
またコンセンサスを得たとしても、皆の意見を反映するか、
どれにも当てはまるような玉虫色の表現になることが多い。
推進派と慎重派が共に拮抗するときはいつもそうである。
例えば、海外と初めて共同事業をする時にも、
これからおたくと一緒にやりますけど、
技術が守られなければすぐに撤退することもあり得ますから。
等という風に。
意思決定が遅いうえに、結局やりたいんだか、やりたくないんだか解らない曖昧な結論が出てきて、日本人は一体何を考えているのかわからない、ということになる。
これでは、相手方にしてみれば
パートナーとしてどう向き合えばよいのか分らなくなってしまう。
当然、交渉相手側から見れば、足元だって見透かされてしまう。
このような姿勢は
特に国際間交渉や異文化交流では、デメリットに働くことが多いが、
僕は完全否定しない。
メリットもあるからだ。
結論が出るまで多少時間はかかるが、
決まってからはむしろ現場作業のスピードは速く、
途中放棄することはほとんどないことが多い。
これが他の国だったら全くの逆。
すぐにトップが決める癖に、現場はそんなことは知らないだとか、
途中でこんなはずではなかったと混乱することがある。
こういう時は、ああ日本人はちゃんとやる、と評判が上がる。
一長一短だ。
だから、ビジネス交渉の現場で
海外の人から、日本人は意思決定のプロセスが全く理解が出来ない、と言われた時は、そのように反論すると、相手も理解してくれることがある。
TPP交渉の現場ではそう簡単にはいかないだろうけど。
それにしても、TPPだけでなく、
大阪府市長選や巨人軍のお家騒動などを見ていても、
「独裁」「独断」とレッテルを張られやすい気質でもあるのだろうか。
一方でリーダーシップ待望論があるというのに。
決断力や実行力などの実力と共に
人格と徳と人望を持ち合わせていなければどうにもいけないらしい。
田中 豊
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