(前々回より続く)
中秋の10月3日夕刻、
日が傾きだして、再び香港島の中心部に戻ってきた。
向こう岸には、
夜が始まったばかりの九龍半島側が望める海岸べりを歩く。
目の前には、漁船や運搬船など小型の船が多数係留されている。
80年代でも、船上生活者や船で商いをする人が沢山いて、この辺でも旅行客向けの遊覧船があり、簡単な海鮮料理を作って出す船や、飲み物・果物を売りにくる小船なんかも寄って来たりして、それはそれは香港らしく、とても風情のあるシーンであった。
今はそんな面影も薄れ、大型の漁船の広間を時間貸しにして
船上マージャン荘なんかを開いているのを目にして、
少しだけ昔を思い出した。
名月を観ながら船上マージャン ― 香港式の風流だな
いつの間にか夜空には、中秋の名月が輝いている。
日本の静かに過ごすお月見も
季節を感じることが出来てとても素晴らしい習慣だが、
半袖で過ごす港町香港のお月見もまた格別。
若いカップルも体を寄せ合い、100万ドルの夜景と海に映った満月をまぶたに重ねながら、いつまでも愛を語らうかのよう。
二人の目にはどう映っているのだろう?
ほかにも家族、老夫婦、仲間連れなどが思い思いに
楽しそうにこの海浜プロムナードをそぞろ歩く。
以前、香港に住んでいた時、中秋の晩には、銅鑼湾(コーズウェイベイ)のビクトリアパークで大勢の市民が持ち寄った月餅などの金属製の缶や蓋の上にろうそくを立てて火を灯して、静かに見守る、
とても幻想的なシーンがあったっけ、と思い出して、早速タクシーに乗って行ってみた。
中秋のお祝いセット
いるわいるわ、大勢の市民たちが公園に向かっている。
ゲートには「採燈会入口」と横断幕が張られているぞ。
中に入ると、以前とチト様子が違う。
どうも、今は
公園内では火を灯してはいけないことになっているらしい。
火災や火傷の危険だからだろうか、それとも公園を汚すから?
それに替わり、あちこちに大掛かりな電飾ランタンが飾られている。
まるで香港の豊かさを象徴するかのように・・・。
月夜の公園はランタンと大勢の市民たちで、とても賑やか。
親子連れもロウソクの代わりに蛍光グッズで
子供たちも楽しそう。
デジカメがあちこちで大活躍だ。
屋外ステージでは、粤劇(えつげき・京劇の広東版)をやってるぞ。
満月の夜、野外で演じられる粤劇は
数百年の昔からの風習だろうから、とてもしっくりとくる。
せりふの意味は解らなくても、どこか懐かしく、
しばらく見惚れていた。
伝統楽器の囃子と抜けるような広東語の節回しが
心にグッと響いてくるネ。
いつもは喧嘩をしてるかのように聞こえる機関銃のようなおしゃべりが大好きな香港人も、満月のお月様の下では、なんとなく物静か。
日本の多くの文化や農作業の節目である節句は
中国から伝わってきた。
家族や生活の営み、自然との融合を生み出した東洋の知恵に、
改めて敬意を込めて、こんな心持ちを大切にしていきたいな、
とソッと心の中で感じた夜だった。
記念撮影 みんな中秋の物語を知っている