(前回から続く)
連れて行かれたところは玉井郷の中心地だろうか、
町の真ん中に突如現れた大きな建屋。
「玉井区青果集貨場」とある。
中に足を踏み入れると、そこは青果物や農産加工品の交易場だった。
気温も湿気も高いムンムンとむせ返るような暑さだったが、
場内は活気ムンムンと、やはりむせ返るような賑わいだ。
さまざま、色とりどりの果物や野菜、食品が所狭しと並んでいるが、
この時期はやはりマンゴーが主役。
日本では、化粧箱やパックに宝物のように大切に「収納」されているマンゴーしか見たことがないが、ここではいわゆる「旬の果物」なのだ。
亜熱帯色彩のグラデーション
黄桃のような色合いのマンゴーも
台北や日本の店頭では滅多に見かけない欠点のあるマンゴーだって、商品の一部として売られている。
それにしても圧倒的な存在感。
やっぱり果物の王様だよ。
はぁ~ぃ。もうひとカゴお買い上げ~ッ!!
場内一杯にあま~ぃ香りが漂っている。
エエッ
こ、こ、こ、こんなに安いの??
ひと盛り300日本円弱!?
頭の中で自分の日本円換算を疑うくらい信じられない値段なんだもの。
どこも名産地の旬の只中というのは、こういうものなんだよね。
「よおっ~し。今日は夢にまで見たブランドマンゴーを浴びるほど喰ってやるぜ。」
僕が財布に手をかけようとした途端、
「ちょっと、よしなさいってば。
もっと良いものを食べさせてあげるから。」
マンゴー輸出の社長殿が言うんだから嘘じゃないとは思うんだが、食べたい衝動をこらえるのは至難の業だ。
うんん~んッ! オフィスかなんかで、見た目綺麗なマンゴーを上品にちょこっと出されたってつまんないんだし、悪いけどここは目を盗んで豪快に頬張るゾっと。
僕を市場に放り込んだら、もうそれでお仕舞い。
魚を海に放り込むのと変わらない。
失踪・行方不明は毎度のこと。
こんな蒸し暑い所から早く自分の会社に行こうとあせる台南人社長を一顧だにせず、僕はズンズン市場の奥に分け入ってどこかへ消えてしまったのである…。
(次回に続く)
田中 豊
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