(前回より続く)
その日、仕事も終わり、夕刻散歩がてらに恒例の路地裏歩きをしていると、
暗い路地の一角で、ひと際目立つ看板の明かりに
「斉天大聖」という文字が目に飛び込んできた。
「我こそは、天にも斉(ひと)しい大聖なり。」
と豪語する野猿あり。
学生時代に京劇で見た一節を思い出した。
もしかして、あの西遊記の主人公“孫悟空”ではないのか??
ワクワクして本堂に入ると、果たして、このお寺の祭神は、
斉天大聖・孫悟空に違いなかった。
中国大陸でもあちこち寺社仏閣を訪ねたけれど
孫悟空を祭ってある所には、これまでお目にかかったことはない。
ずらりと居並ぶ悟空さんたち。
自分の毛をむしって息を吹きかけ無数の悟空を造りだす分身の術にも思えるし、天界で悪さが過ぎて、菩薩様から石猿に変えられてしまったようにも見えるしでユーモアたっぷり。
夜の本堂で独りポツんと拝んでいたら、
どこからともなくオジさんが二人、ス~ッと現れて来て、
僕に向かってやおら講釈を垂れ始める。
顔は赤いし、酒臭い。 足元だっておぼつかない…。
僕とは、国語(北京語)で会話しているのだが、
方言なのか、ロレッているのか、そのうち何を話してるんだが解らなくなって、とにかく僕は相槌を打つばかりになってきた。
そう、一生懸命にいろいろ紹介してくれてるんだ。
そのうちこのオジさん、気が大きくなって、
わざわざニッポンから来たのか? おい、入れ、入れ
と、やおらカギを開けて、柵の内側の本尊が安置されている仏壇を案内してくれるという。
この酔っぱらった人が管理人さんなのかどうか分らないが、
菩薩様に免じてもらって、ご禁制の柵の中に入り、
居並ぶ悟空さんたちを抱き上げたり、サワサワ撫でさせてもらった。
間近で触れながら、悟空様と仲良しになる
後ろ姿だって観ることが出来た
悟空が天界の無数の蟠桃を盗み食いして不老不死になったように
僕も何体かの悟空に触れて、強力パワーを授かったかも知れないゾ。
オジサンたちはきっと僕に、興味深いこと、面白いこと、故事来歴など
たくさん教えてくれたんだろうけど、
残念ながら、その後は翻訳不能、理解不能、判別不能でした。
でも、オジサンの熱い想いは届きましたよ。
それにしても、この青いTシャツのオジサンがだんだん孫悟空に見えてくるから不思議なんだよねぇ。
もしかして、彼も分身だったりして!?
おっと、もうひとりのオジサンも関帝のような神様に見えたッ
やっぱりこのお寺のご本尊は、菩薩様と観音様だった。
悟空がちゃんと守ってくれてるんだね。
お寺を去る時、オジサンは、僕が見えなくなるまで、
本堂の外からいつまでも手を振って見送ってくれた。
南部台湾の人って、ほんとうに親切なんだ。
悟空さん、イヤ間違った。 おじさ~ん、ありがと~~う。
また来ます。再見!
んッ?? それにしても、あの二人
本当に神様の化身だったのかも知れないぞ???