(前回から続く)
ここは別府・鉄輪(かんなわ)温泉の湯治場の一角。
庭にしつらえられた野趣溢れるテーブルに陣取る。
空気がすがすがしい。早くも体はリラックスし始めている。
しばらくすると、竹の食器に盛られた何の変哲も無い数種の野菜の塊がそのままの姿で運ばれてくる。
よく見ると色鮮やかで、まだ湯気が立ち上っていてアツアツの様子。
ひとつひとつ野菜を口に運び、舌の上でじっくりと噛みしめてみると、ジワぁ~ッと自然の甘みが口いっぱいに広がり、
ウォっ!と頭の中を閃光が駆け巡る。
良く知っているどこにでもある素材を、しかも味付け無しで食べているというのに、明らかに今まで口にした事のない深い味わいに面食らってしまった。
甘藷(サツマイモ)、馬鈴薯、里芋の三種の芋はより甘みを増していて、トウモロコシも心なしか味が濃い。
鶏の手羽先は身離れホックリと、それでいてジューシーで炭火焼のそれとは全く違う趣向である。
余分な脂分は全部落ちていて、しかも蒸気で蒸してあるからパサついていない。
なんだァ! この食感はッ
この“地獄蒸し”と呼ばれる料理はシンプルなだけに、一見素朴だけれど、この違いは驚きに値する。
続いて、海産物が蒸しあがってきた。
大ぶりの車えびもオレンジ色のウチワエビに隠れるほど
うわッ!! と歓声が上がる。
やはり豪華に見栄えがするネ。
見ているだけで胃袋が動き出す。
カキもまた旨みがタップリ!
蒸した食材は、本来の旨みが生きているから、個性的な調味料をまったく必要としない。
近くの樹からもいできた大分カボスを絞れば十分。
また、温泉蒸気の様々なミネラル質が食材を包み融合し、微妙・絶妙に食味と栄養を付け加えるのである。
24時間かけてじっくり蒸すと白身の部分が中までコーヒー色に。
旨いッ!
バーベキューや焼肉のようなガツンとしたインパクトは無いが、かえって体にとても優しい「癒しの食べ方」ということにすぐに気がつく。
もち米も蒸して食べるものだった・・・
地獄蒸し料理は、もともと湯治客が八百屋や畑から仕入れてきた自然の食材を自分で調達してきて蒸して食べるという食養生の形態のひとつであり、また蒸している間のひと時をかまどを囲んでのコミュニケーションによって、心まで癒されていくのである。
自然の空気と水、素材そして景観と人情まで生かした、実は最高の料理法なのではないだろうか。
蒸しあがるまでの間、会話も弾む・・・
しかも、ここでは光熱費、加工費はゼロ!!
ゴミも少なく無駄もない。
今の時代にピッタリではないかッ!
地獄蒸しは名前とは裏腹に決して手の込んだ派手な料理ではなけれど、ぜひ多くの皆さんにも現地に足を運んで堪能してもらいたい。
グルメ探訪、健康オタク指向とは異なる新たな価値観を体験できること請け合いだ。
ただし、豊かな感性に富む人には、という条件付きだけれども・・・。
蒸し料理は食べた後も、あの重い満腹感、食後感がない。
心が満足しているからもあるのだろうが、とにかくもたれないのだ。
胃袋もきっと楽していることだろう。
蒸し上がる頃を見計らったかのように現れる
この温泉蒸気こそ、エネルギー不安を感じるこの時期に地域資源として活かせる予感・・・。
ところで、地元の方の案内で、地獄蒸し料理を食べた後は、今度は自分が蒸される番だと聞いて2度ビックリ。
エエッ!! 自分が地獄の釜で蒸されるの???
頭の中でチラッと、骨離れのよい鶏肉と自分の胸のあばら骨がオーバーラップした。 (次回に続く)

田中 豊

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あちこち出没してすみません!
大黒屋さんじゃないですか~私もいっつも利用しています。うまいし、ここは手頃な値段で泊まれるし、ホントゆうことなし!女将にもお世話になってます・・・(涙)
別府の人たちも熱い人が多いですよ!!