(前回から続く)
兄弟が操る僕らを乗せたボート船は、ひたすら湖の沖の方へ進んでいく。
いったいどれだけ時間が経ったのだろうか?
相当遠くへ来たな、と思って周りを見たら、
やっぱり視角360度すべてが水平線だ。
改めて、その大きさに驚くやら、戸惑うやら。
これは湖なんだ・・・。 じっと心に言い聞かせる。
と、
遠くの方に何か黒い物が浮いている。
いや、何かうごめきながらこっちの方へ向かってくるような。
えええ~ッ!
小学2年生ぐらいの子供がタライに乗って棒のようなオールを
一生懸命漕ぎながら、波に揺られてやって来るではないか。
そんな馬鹿な!
どこから来たんだろう。こんな沖まで。
波をかぶったらお終いじゃないか。
おいおい! 大丈夫かぁ?
それでも、本人たちはいたってケロッとしている。
懐から蛇なんか取り出して、見せてやるよ、なんて自慢する。
ザブンザブンと波を被り、
水が入る度に手元の茶碗で掻き出している。
何事もないかのように。
日本だったら、親や教育委員会は120%卒倒するね。
* * *
僕らのボートもしばらく大海の如き沖の上でユラリユラリと漂った後、舳先を反転させて岸辺に向かう。
立ち寄った休息所に着くや、
来るわ来るわ、タライ舟の一寸法師たちが・・・
女の子だって、ホレこのとおりバランスをとりながら
屈託なさそうな笑顔の後のおねだりは、いつもの1ドル紙幣。
愛想を振りまく彼らのビジネスが一段落すると、
きびすを返したように遊びに戻る。
何事も無かったかのように。
これでいいのだ・・・。
シーナさんの本によると、やはりここでは
伝染病や衛生状態の悪さが原因で
何人に一人かは子供が死亡してしまうのだそうだ。
お遊び、それともお手伝い???
僕らがここの井戸水を飲んだら、
簡単にアメーバ赤痢に罹るかもしれないという。
さあ、下校だ
この元気な子供たちは、どこまでもたくましいと言うことになる。
前向きっぱなしだけど、赤ちゃんには命綱くらいは付けてる・・・よね???
と思いきや、付けてなかった!!!
水に生きている。
生き生きと、生きている・・・。
田中 豊
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すばらしい紀行文です。写真家の腕前と散文家の手腕が幸福な一体感のなかにある。ぼくも、拝見しながら、しばし河にたゆたう気分でした。
老薄さん 多謝鼓励! 毎回脱帽の想いで拝読しているブログの作者にここまで褒めていただき感謝感激です。老薄さんのブログを読むようになって、僕もこれでも意識的に言葉を選びながら記述するようになるほど影響を受けているんですよ。残念ながら、これまでの人生で良書を読む機会が極端に少なかったことと、思索が単純なことが災いしてインプットがあまりに少ないことをようやく認識しています。もう泥縄です。
でも、今はお手本ブログがありますから、せめて真似ることから始めているのです。これからも毎回ブログを楽しみにしています。