(前々回から続く)
「ああ、やっと戻れた…。」
くだんの知人社長は、僕の勝手気ままな動きに持て余しきっていただけに、安どの表情を浮かべた。
彼の会社は、マンゴーをはじめ台南県のあらゆる農産物を海外に輸出する
集荷、選別、検疫対応、貿易実務を取り仕切る組織で、地元政府や農協、生産者、需要家などの強力なバックアップを受けている。
「どうぞ、どうぞ、隅から隅まで、全部観ていって下さいね。」
いくら僕が素人だと分っていても、
広大な施設の深部まで全公開するとは大きな自信だ。
いや、むしろ
海外に対応している最新鋭の設備や運営の状況を公開することで
安心安全をより確かなものにしている。
外からこの選別作業場に入るまで、エアシャワーはもとより、お化け屋敷くらい長い、真っ暗な通路を通って初めて入室できる。何重にも厳重な措置が取られ、虫一匹なかなか侵入できないだろう。
台湾南部ののどかな田園風景とは打って変わっての近代設備と
従業員の効率よい作業風景に圧倒された。
海外向けの蒸熱処理設備。50数度の熱で4時間処理する。
この季節はなんといっても主力のマンゴー輸出の最盛期で
世界に向けて外貨を獲得するんだという強い意識が、清浄な空気を通してビシビシと伝わってくる。
日本から検査に来る検疫官のための専用の部屋まで準備してある。
倉庫の中には、海外各国向けの輸出貨物が出荷を待っている。
韓国向けの荷姿だ
仕向け先を見ると、日本の有名な店舗の名前がぎっしり。
首都圏の消費者なら皆知っているストア向けだ
消費者ニーズ、規格、鮮度保持、検疫条件、出荷シーズン、競合国製品動向など日本市場に関して徹底的に調査し、設備、人員、資金など周到に準備している。
またグローバルGAP取得を目指して関連の作業も進めている。
やはり農産物を本格的に輸出支援するということは、
ここまで徹するという、僕も認識こそしているが、
改めて、その凛とする現実に気を引き締めさせられた。
また、農産物のビジネスを成り立たせるための重要な要素が、規格外品の商品化。
ここでは、最新鋭の乾燥機を導入して、ドライマンゴーを製造している。
作りたてを一口頂くと、これはもう最高級の干し柿に匹敵する自然な甘みと食感に驚いた。命を与えられたドライマンゴーは、もしかして生より美味しいかも!!
さらに、この社長さんとは、今後いろいろな農産物貿易、農業協力など
広範な情報交換、意見交換を詰めていった。
マンゴーでいえば、ここ台南は、宮崎県や沖縄県、熊本県など国内産地にとっては、確かに強力なライバルともいえるのだが、ある意味、本場でもあり、栽培や利用法、技術革新などにおいて多くの集積と文化を持っているわけだから、大胆に交流してはどうだろうか。
この社長氏も、大いに歓迎だと胸を張って答えてくれた。
日本と台湾、アジアとは、農業食品分野でも、
輸出だけでなく、様々な経済技術交流、人材文化交流、ビジネスチャンスが広がっている。
地元で大人気のドライブインで
生のマンゴーでお腹一杯の僕は、デザートを頬張る地元の人たちの健啖ぶりに 、ただただ見つめているばかり…。
それにしても、今日一日、いったい何個のマンゴーを頬張っただろうか?
もうしばらくは見るのも御免…、
とはいかず、ますます食欲をそそられるのがマンゴーの魅力である。
(シリーズ終わり)
田中 豊
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