今年も一年間各地の現場を訪問する機会を得たが、
いつもながら、どこに行っても誰を訪ねても
心躍る素晴らしい出逢いばかりだった。
その中から、敢えてひとつ選ぶとして
これぞニッポンの里山の光景として
目に焼き付いた11月の感動をもう一度。
米の収穫も全て終わり冬支度の頃、
島根県松江市から東南方面に車を走らせる。
山間部に入ると道の両側に、果樹が赤い実を付けている。
車が止まったのは、上意東の畑(はた)地区。
そう、知る人ぞ知る干し柿の里である。
海抜約180m前後の山腹は、風水でいう龍の通り道のような
入り組んだ谷あいの地形をしている。
入り組んだ谷あいの地形をしている。
後にその地形が、日本有数のブランド干し柿の秘密であることを知る。
周りは柿の木だらけ。赤い柿が実っている。
ただ、僕には馴染みのない形をしている。
縦に細長い西条柿である。
実には4本の筋というか溝がある
四つ溝西条柿といわれている。
もちろんこのままでは渋くてとても食べられない。
話によると、戦国武将の毛利家が兵糧食として
ここに西条柿を持ち込んだと言われ、
樹齢400年を超す老木もあるという。
この日も収穫された西条柿が
加工場に集められる。
畑地区には19戸の生産者さんがいて
この日、JAくにびきの案内で
組合長さんの加工場を見学させて頂いた。
溝もくっきり見事な西条柿だ。
まずはじめに機械でヘタを取る。
こんな具合になる。ここまでは簡単。
次に皮むき。
見ているととても素早くてきぱきと見えるが
実際はひとつずつとても丁寧に皮をむいている。
この仕事はご婦人方の担当だそうだ。
根気と熟練が要る作業だ。
皮をむき終わると重さを測って、選別する。
干し柿は、一本の紐に10個と決まっているから
重さが異なる柿を、一本の紐ごとに重さを均一にするために
選別をしなければならないのである。
見ているだけで大変手間がかかる作業だと驚く。
紐を付けたら、いよいよ乾燥する工程にはいる。
晴れた日は、こうして窓を開け放ち、天日と風で乾燥させる。
干し柿造りで重要な三要素というのがあって、それは、
①乾いた冷たい風が通り抜けること
②昼間は十分な日差しがあたること
③気温の日格差が大きいこと
なのだそうだ。
ちょうど昨日は、この三条件がベストの状態で揃ったそうで
昨日から干した分の列は、初日としては最高の出来栄えなんだそうだ。
あめ色の宝石と呼ばれる所以だ。
ひとつひとつ驚くほどの手間をかけ
しかも自然条件がそろって初めていい商品が出来るのだ。
ブランド加工品とは、
このような陰の苦労や条件が積み重なってできた逸品なのである。
このような陰の苦労や条件が積み重なってできた逸品なのである。
そこでこの畑地区の地形というのが
乾いた冷たい風が、遠くに見える中海から吹き付けてきて
この特殊な地形をした谷間を通り抜けていくことで
見事に干しあがる理想の環境だということなんだそうだ。
見事に干しあがる理想の環境だということなんだそうだ。
山の向こうが中海。風が吹きぬけてくる極めて特徴的な地形。だからこの地区だけでしか出来ないのだ
以前、林道を山腹に一本作るというだけだけで、気象条件が変わるかも知れないと大議論にもなったくらいに神経質なことらしい。
真心を込められて、陽光と寒風と外気に身をさらす
一週間ほど天日に晒してから、移動して熟成させる。
約ひと月干したら出来上がり。
僕が訪ねたのは11月だったから、まだ出来ていなかった。
ちょうど今頃が出荷の最盛期なのでは?
頂いたのは、去年の製作分。真っ白な粉を吹いて、糖度はなんと60度になるらしい
これだけ手間暇がかかるのだから、高級品となる。
首都圏、関西と広島岡山などの山陽地区にも販売されているそうだから、見つけたらぜひ買って食べて欲しい。
柿小屋と呼ばれる3階建てのこの建物の光景の素晴らしさは、
今でも思い出す。
ウットリしてしまう。
今年のメモリー。
今年の里山の景観感動賞
ちなみにこの表面に白い粉を吹いたのがコロ柿と言われるもので
島根県の戦略商品となっている。
一方、縁結びのパワースポットとして、女性の参拝が絶えない八重垣神社のすぐそばに、もう一つの干し柿加工場がある。
こちらは、あんぽ柿である。
あんぽ柿と言えば、福島県伊達産が有名だが
ここ島根県でも生産されている。
ここ島根県でも生産されている。
やはりこれも西条柿を一つずつ丁寧に皮を剥き、
乾燥機を使って水分を30%くらい飛ばす、
少しウエットな状態で中がトロッと溶け出るようだ。
気が遠くなりそうに丁寧な処理と扱いには恐れ入る。
しっとりと柔らかいタイプと言える。干し柿好きにはたまらない一品
日本人は古くからこんなに上品で甘いデザートを食べてたんだ。
どれも手作業であることについては変わらない
JAくにびきは、本当に生産者のために販路開拓に努めている。
商品の特徴を熱心に説く担当者の目はキラキラ輝いている。
きっと生産者目線で日々考えている頼もしいJAに違いない。
澄んだ青空と、深い緑の大地、そして干し柿の琥珀色。
今年の印象深い配色の里山の姿を振り返ってみた。
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田中 豊
地域の元気づくりと海外ビジネスを通じて、日本を元気にしたい行動派プロデューサーです。
海外ビジネスの参謀役として長年活動してきました。
とりわけ農林水産業を振興にすることで地域が元気になることを現場の生産者、支援者の皆さんと共に日々実践していることをとても誇りに感じています。
「地域を活かし、そしてつなぐこと」をスローガンに訴え、いつの時でもチャンス(chance)ととらえ、絶えずチャレンジ(challenge)し、チェンジ(change)を果たしていくことの「三つのC」をモットーにしています。
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